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2020年11月01日

DXはなぜうまくいかないか、その背景を探る

DX(Digital Transformation)の話題性は相変わらず高く、製造業でもDXに取り組む企業は増えているのですが、成果が出ているところは限られ、その数も増えてはいません。その原因としては、DXのビジョンや戦略の欠如、人材不足などが調査報告されています。今回はこれらの原因の背景について考察してみます。

背景その①:「DXという言葉だけが独り歩き」
DXという御旗は掲げつつ、自社としての「DXとは何か」という定義が曖昧なまま、取り組みに入ってしまっている企業が結構多いようです。この定義については、ITの調査会社やITベンダー、そして経済産業省がそれぞれのDX定義を提案していますが、その内容は様々です。例えば、DXのオリジナルである、ウメオ大学エリック・ストルターマン教授のDX定義と経産省のDX定義とはかなり違いがあります。

DXの定義者 定義内容
ウメオ大学
エリック・ストルターマン教授
(オリジナル)
デジタル技術が人の生活のあらゆる面に影響をもたらす変化
経済産業省
DX推進ガイドライン
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

図表1:オリジナルのDX定義と経済産業省のDX定義

企業内では経営者やDXに取り組む担当者、IT部門など関係者がDXに関して、共通理解のないままDXに取り組んできた結果、後になってDXに関する混乱が出てきています。時には、「DXとは目的か手段か」といったそもそも論に戻ることもあります。多くの定義において、DXとはProcess或はChangeとしており、決して目的や目標ではありません。しかしながら、DXがブームとなり、経営者が社外でDXのことを色々聞かされると、目的や課題なしに、「我が社もDXを早く構築すべき」といった手段と目的の逆転が起こり得ます。

背景その②:「DXの手段ばかりに注力」
すでに多くの企業がDXに取り組んでいますが、「DXでどんなビジネス価値を実現したいか」といったDXの目的が希薄、あるいは欠落したまま、デジタル技術のツール選択や導入に一生懸命になっている企業が少なくありません。また、「2025年の崖」に陥らないように社内に残るレガシーシステムの再構築がDXの目的と誤解している企業も同様です。
このようなDX取り組みの誤謬に陥らないようにするには、関係者がDXの目的と手段、その関係性を共通に理解できている必要があります。このための手法として、SCN(Strategic Capability Network)がお勧めです。SCNは下図に示すように、目的や手段そして、その関係性をネットワークで表す、単純だけどパワフルな手法です。SCNの最上段にはDXの目的とするビジネス価値、最下段にその手段を置きます。手段としては、例えばAIツールやIoTなどデジタル技術面に加え、データアナリスト配備や機械学習ノウハウの社内蓄積といった、体制面や知識・スキル面の手段も対象となります。そしてSCNの目的と手段の中間に来るのが企業の能力で、これがDXの目的実現の要となります。
他社事例を真似て、クラウドやAIツールをいくら整備したところで、企業の能力が発揮できなければ、DXの目的達成には至りません。DXのビジネス価値を実現するために必要となる企業の能力、そしてその企業の能力を確保するために必要となる手段、これら3つ要素間の関係性を分析し、分かり易く定義できるのがSCNです。

DXの目的や手段を明確化する手法SCN

図表2:DXの目的や手段を明確化する手法SCN

背景その③:「DXに必要な人材と現状のギャップ」
DXの目的を達成するには、多くの場合、現在社内にはないスキルや能力をもった人材が必要となります。欧米企業は、新たなスキルや能力をもった人材を社外から素早く採用し、合わない人材と躊躇なく置換えます。一方、日本企業の場合は、そうは簡単にいきません。欧米企業のように大胆に人員構成を置き替えることは、雇用契約や人材流動面で困難です。そこで社内の人材育成やローテーションに頼ることになるのですが、これだと期間を要しDXの取り組みスピードにはついていけません。
日本企業には、もう一つ人材の課題があります。企業内でDXを担う一番手となるIT人材が、欧米企業に比べ遥かに少ないのです。日本のIT人材は7割がITベンダー企業に属し、ユーザー企業にはたった3割しかいません。DXを推進するのはユーザー企業であり、いくらITベンダー企業の人材の支援があっても当事者ではありません。

各国のIT人材の割合

図表3:各国のIT人材の割合
(ソース:IT人材白書より編集加工)

コロナ禍もまだまだ収束しそうにありません。これからも企業収益の悪化に伴い、止む無く一旦DXの取り組みの優先度を下げざるを得ない企業が出てくるでしょう。一方で、コロナ禍でリモートワークや脱ハンコは当たり前となり、仕事に対して人を割り当てるジョブ型雇用、そして人材の流動化も一気に進みそうな気配です。コロナ禍によるニューノーマルを企業が変革する上での千歳一隅のチャンスと捉え、DXを加速する企業が増えてくることを期待します。

2020年11月

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