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2020年10月01日

製造業の基幹システムに対する考え方を見直す

IT業界では基幹システムという言い方がごく当たり前に使われ、企業のシステム部門でも業種に関係なく広く使われています。基幹システムという言葉は、多くの企業がメインフレーム上でシステムを構築していた頃から使われ、情報系システム、周辺システム、部門システムといった社内の他システムと区別する意味で用いられることが多いようです。つまり、基幹システムという言い方の根底には、社内にあるシステムの中でも基幹システムが中心であり、大事であるとの考え方があります。単なる名称として基幹システムと呼ぶのは良しとしても、その言葉の根底にある考え方をそろそろ見直す時期が来ています。今回は製造業における基幹システムに関して、根強く残る考え方について考察します。

まず、製造業の基幹システムの対象業務をバリューチェーンで見ると、事業そのものを遂行する主業務である、生産、販売、購買の一部となります。主業務は、その巧拙が企業の業績に直結する重要業務ですが、基幹システムが担うのは、主業務の中でも生産管理や販売管理といった間接業務が対象となります。製造や営業など直接業務は、MES(製造実行システム)やSFA(営業支援システム)など、基幹システム以外のシステムが使われます。

製造業のバリューチェーンから見た基幹システムの対象

図1:製造業のバリューチェーンから見た基幹システムの対象
出典:マイケル・ポーター「競争優位の戦略」を基に編集・加工

製造業の基幹システムの対象範囲について特に定められている訳ではありません。実際は生産管理や販売管理、購買管理とすることが多く、場合により会計や人事も基幹システムに含められることがあります。また、製造業の基幹システムの目玉となる生産管理の範囲も決まっておらず、例えば原価管理や品質管理を含めるか否か、企業によって異なります。そこで当稿の以降の議論では、生産管理と販売管理、そして購買管理を基幹システムの範囲とします。

製造業の基幹システムに関して見直すべき考え方は大きく2つあります。一つ目は、「基幹システムはミッションクリティカルである」との先入観です。ミッションクリティカル・システムとは、停止すると業務遂行に致命的な悪影響が出るほど重要であるシステム意味します。基幹システムは英語では、よくMission-critical systemと表されます。日本語でも基幹システムはその名の通り基幹業務を担っており、当然最も重要なシステムであるとの考え方です。確かに基幹システムが基幹業務を直接に担っていれば最重要といえます。例えば、銀行の主業務は、預金を基に融資を行い、その金利差から収益を得ることであり、それら全てを担っている勘定システムはまさにミッションクリティカルなシステムです。銀行の基幹システムである勘定システムは、文字通り事業遂行上不可欠であり、障害などによる中断は許されません。一方、製造業の基幹システムを見ると、一部企業の基幹システムではミッションクリティカルであるものの、ほとんどの企業の基幹システムは、その役割が主業務の中の間接業務に止まっています。つまり、製造業では基幹システムであっても、必ずしもミッションクリティカルとはいえません。

基幹システムに関するもう一つ見直すべき考え方は、「基幹システムを刷新すれば競争力を高められる」との期待感です。確かに金融や航空業界のデジタル化事例を見ると、基幹システム刷新により新たな金融サービス創出や利便性の高い予約サービス提供が可能となり、企業競争力を高めています。ところが製造業では、基幹システム刷新することで直接的に競争力向上につなげたデジタル化事例はなかなか見つかりません。基幹システムが提供する機能は、当り前機能と差別化機能に分けて見ることができます。当り前機能とは、間接業務の効率化や業務標準化のためのシステム機能で、充足する必要はあるのですが、どれだけ充足しても競争優位にはつながりません。一方の差別化機能とは、充足すればする程、競争優位性を高めることができるシステム機能のことを指します。例えば短納期が競争力となる業界では、他社が追随できない短納期サービスを可能にするシステム機能を基幹システムに充実させることで、競争優位を確立しているメーカーがあります。このように、自社戦略に基づく差別化機能に注力することなく、当り前機能を整備するだけの守りの基幹システム刷新では、競争力は高まりません。

当り前機能と差別化機能

図2:当り前機能と差別化機能

これまで日本企業は欧米企業に比べ、基幹システムに拘り、過大視する傾向がありました。昨今、製造業でもデジタル化が求められ、レガシー化した基幹システム刷新が叫ばれる中、半世紀来使われてきた基幹システムなる言い方とそれに付随する先入観や期待感もそろそろ見直す必要があります。ものからサービスへのシフト等、新たな製造業のビジネスモデルに応じて基幹システムのあり方も変わります。これまで情報系システムや部門システムと呼んできたシステムの重要性が増し、基幹システムの役割も変わってきています。ものづくり大国である日本の製造業が新たなシステム全体像のあり方を世界に向けて指し示していくことを期待します。

2020年10月

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