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2020年03月01日

「CASE」本格化で産業構造は様変わり①

前回は自動車産業で起こっているCASEという4つの大きな変革について考察しました。では、CASEが本格化していくと、製造業の構造にどのような影響を及ぼすのでしょうか、また、製造業以外の産業は影響を受けないのでしょうか?今回はCASEが既存の産業構造をどのように変えてしまうのか、10年程度未来のシナリオを描いてみることにします。
CASEによる既存産業構造への影響は、次のように下から上へ、3つの段階を経て及んでいくものと推測します。

CASEの既存産業構造への影響

図:CASEの既存産業構造への影響

第1段階:「E」電動化で起こる自動車産業の下剋上

自動車産業では長年、自動車の完成品メーカーが日本の産業をリードしてきました。自動車メーカーは自らを頂点とし、多数の部品メーカーや販売会社、サービス会社からなる系列を成し、一体化したビジネスモデルを築いてきました。しかし、あと10年も経つと、この盤石の自動車産業のビジネスモデルをCASEが破壊してしまうとのシナリオが真実味を帯びてきています。車が「E」電動化すると、まず部品の数は4割減り、車の構成が単純化されます。さらに電気・電子部品になると、共通化・標準化が進んでいくはずです。こうなると部品のコモディティ化が進み、価格が低下していき、やがてボリュームが競争力となっていきます。車のモデルチェンジはこれまで約5年でしたが、「E」によりどんどん短くなり一般の電気製品と同様、1年以下と短くなっていくでしょう。自動車メーカーを頂点としたピラミッド内で統合されたバリューチェーンから、水平分業化への流れは止められません。

このような業界変化は、かつての液晶テレビやパソコンの業界で辿ってきたものです。パソコン業界を振り返ると、当初のパソコン完成品メーカーに代わり、最も力を持ち、最も利益を享受したのは、OSやCPUなどのキーパーツのメーカーでした。車の電動化が進んでいくと、完成車メーカーに代わり、センサーやモーターなどの特定サプライヤーがキーパーツ・メーカーとなり、大きな影響力をもつ存在になろうとするのは当然です。また、水平分業が進んでいくと、これまで自動車メーカーの強みとなっていた自社系列部品メーカーや販売サービス網などは、逆に足かせとなっていき、完成車メーカーと部品メーカーとの関係はドライなものとなっていきます。このように力のある部品メーカーは、完成車メーカーに代わり権力を奪い去る自動車産業の下剋上が起こる可能性は益々高まっていくと考えられます。

第2段階:「C」コネクティッドと「A」自動運転で自動車市場戦国時代に

例えば、以前はエレベータやモノレールには運転手がいましたが、最近は無人運転が当たり前です。車の自動運転が当たり前になる日は思っているよりも早く到来しそうです。また、ものがネットにつながることで、ビジネスは大きく変化していきました。自動運転車がネットにつながることで、例えば自動運転のソフトは最新モデルに自動アップデートされ、事故や故障も未然に防ぐことができます。車から取得される道路周辺や移動に関するデータは色々なサービスを産み出すでしょう。

こうした「C」コネクティッドと「A」自動運転に、自動車メーカーは大きな投資を行い、開発を進めています。しかし、自動車メーカーより大きく先行しているのが、GoogleのようなIT企業です。Uberのような配車サービス、中国のベンチャーIT企業も実質的な自動運転サービスを提供しているという点で、先を行っています。日本でも家電メーカーや家電量販店などこれまで自動車とは無縁の業界から、新たに自動運転車市場に参入するとのニュースが相次いでいます。

このように「C」コネクティッドと「A」自動運転の市場では、ハードや系列のしがらみなどない、ソフトに強い企業が既存自動車メーカーより優位に立っています。今後、AIや5Gに強みをもつ新たな異業種企業が、身軽に参入してきても不思議ではありません。当然自動車メーカーも黙って見ている訳はなく、未経験の異業種との競争に立ち向かうことになります。ある時はソフトやネットに強い企業と手を組み、一転して競争していく、自動車市場は戦国時代となっていきます。

これまで見てきたように、CASEの本格化は、日本経済で最大の自動車産業の行く末を大きく左右し、自動車産業に止まらず製造業を始めとした日本の産業全体に大きな変化をもたらします。自動車関連企業はCASEにそぐわない事業は縮小し、CASEに合わせた事業構造に改革、転換していくものと考えられます。世界の既存自動車市場で大きなシェアを占める日本の自動車関連企業も、そろそろCASEに舵を切り、大胆な行動を起こすのではと注目していきたいと思います。
第3段階については次回見ていくことにします。

2020年3月

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