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2015年12月01日

シーメンス社はソフトウエアでコトづくり

過去2回のコラムでGE社のものづくり革新について紹介してきました。今回は、GE社と同じく重電業界の企業であり、ドイツの「Industrie4.0」の旗振り役であるシーメンス社のものづくり革新を見てみましょう。

第4次産業革命となる「Industrie4.0」を率先して推進するシーメンス社ですが、創業は1847年まで遡る老舗企業です。2014年度売上は約720億ユーロで、グローバルの重電業界ではGE社に次ぐ巨大企業です。シーメンス社は図1のように8つの事業をもっているのですが、GE社とはガスタービンや風力発電の市場、CT(コンピュータ映像断層装置)を始めとする医療機器市場などでトップシェア争いをしています。昨年6月のフランスのアルストム社のエネルギー部門買収ではシーメンス社はGE社と激しい競争を行い、最終的にGE社が約1兆2900億円というGE社史上最大の買収に成功しました。また、昨年9月には、今度はシーメンス社が米国のコンプレッサー・タービン製造最大手の米ドレッサーランド社を76億ドルで買収しました。このように、お互いが相手の地盤でM&A攻勢を強めています。

シーメンス社の2014年度事業別売上構成
図1 シーメンス社の2014年度事業別売上構成
(出典:シーメンス社HP資料より編集加工)

もうひとつ両社が激突している分野が製造業のデジタル化です。以前紹介したようにGE社は、「アドバンスト・マニュファクチャリング」でものづくり革新を「インダストリアル・インターネット」で新たなビジネスモデル構築を進めています。一方のシーメンス社は、「Industrie4.0」構想の一つである「スマート工場」を自社のアンベルク工場において既に実現しつつあります。このアンベルク工場では、以前からBMW社やダイムラー社、BASF社、バイエル社などドイツの様々な有力メーカーの工場向けに、産業機器などを制御する装置を製造してきました。現在のアンベルク工場内では、生産設備同士が接続され、ICタグやバーコード、センサーやカメラが製品や設備に装備されています。お客様の工場毎に異なる製品の注文が入ると、人間からの指示を受けることなく部品を集め、現在どの工程にあるかをリアルタイムで管理し、組立順序を自動的に制御します。製品が急に設計変更された場合でも、データの書き換えだけで簡単に対応できます。これにより、アンベルクの「スマート工場」では、お客様の注文を受けてから24時間以内に出荷できるようになっています。工場で働く従業員の数は創業時の1150人とあまり変わっていませんが、従業員の主な仕事は生産工程の監視やコンピュータのオペレーションを行うことに変わり、工場の年間生産台数は創業当時の8倍の1200万台に増え、不良率は0.0012%まで低減しています。このようにアンベルク工場では「Industrie4.0」の初期段階ではあるものの、「マス・カスタマゼーション」のパイロット版を実現しています。

「スマート工場」を実現していくためには、製造工程をデジタル化するための様々なソフトウエアが重要な役割を果たします。「Industrie4.0」の成否はソフトウエアで決まるといっても過言ではありません。昨年、シーメンス社は「ビジョン2020」と題した中期経営計画を発表しました。その中では、将来におけるシーメンス社事業の収益源は工場のデジタル化にあり、ソフトウエアをシーメンスの今後の成長分野のすべてにおける最重要施策として設定しています。つまり、シーメンス社の製品やサービスの付加価値を高めるコトづくりはソフトウエアでなされると見ることができます。実際、シーメンス社は過去5年だけでも10社以上のソフトウエア企業を買い漁ってきました。それらの企業はどれも生産計画や製造工程管理、PLM(製品ライフサイクル管理)、シミュレーションで実績のあるソフトウエア技術をもつ企業です。また、シーメンス社は研究開発費の多くをソフトウエア開発に投入してきています。このためシーメンス社のソフトウエアのレベルは極めて高く、スペースシャトル後継宇宙船「ドリームチェイサー」の開発で活用され、競争相手となるGE社の生産現場にも採用されています。

GE社やシーメンス社の営業利益率や時価総額をみると、日本の同業企業はまだまだ大きな差を開けられています。日本のメーカーも自社内のITやソフトウエアの事業を持っているものの、GE社やシーメンス社のように、ものづくり革新やビジネスモデル革新の域までは活用できていないようです。ものづくりが大きく変わろうとする中で、世界から注目を集めるような大きなビジョンを描き、具体的な戦略に打って出る日本のメーカーが次々現れることを期待します。


2015年12月

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