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2015年11月01日

GE社に見るプラットフォーム型ビジネスモデル

超優良企業GE社は製造業への回帰を宣言し、本気でものづくり革新に取り組んでいます。今回はGE社のものづくり革新の目玉となる「インダストリアル・インターネット」をビジネスモデルの観点から考察します。

GE社の「インダストリアル・インターネット」は、下図に示すように、エンジンやタービンなどに取りつけられたセンサーから継続的に生み出されるデータを収集し解析することで、故障の予知や稼働の最適化、リスクの軽減を行う「IoT(モノのインターネット)」の好事例です。その効果について、GE社とサービス契約をしているマレーシアの航空会社は、「コストの半分を占める燃料費を毎年1%抑えるだけで巨額の経費削減になる」と高く評価しています。また、ドイツの電力会社では風力発電所の年間稼働率を4~5%向上させています。

「インダストリアル・インターネット」の概要
図 「インダストリアル・インターネット」の概要
(出典:GE社HP資料を参考に作成)

GE社は電力や航空などそれぞれの産業において、「インダストリアル・インターネット」による1%の改善が年間数十億ドルの膨大な価値をもたらすと試算しています。

産業 改善タイプ 価値/年
航空 1%の燃料費削減 20億ドル
電力 1%の燃料費削減 44億ドル
鉄道 1%のシステム効率向上 18億ドル
医療 1%のシステム効率向上 42億ドル
石油・ガス 1%の投資抑制 60億ドル

表.「インダストリアル・インターネット」の価値
(出典:GE社HP資料より編集加工)

「インダストリアル・インターネット」における価値創出の原動力は、契約先企業が保有する産業機器や設備のパフォーマンス管理です。GE社は用途に応じた色々なパフォーマンス管理アプリケーションを稼働させるプラットフォームとして、「Predix」を自社開発しました。この「Predix」を使えるのは、GE社の産業機器や顧客企業に限りません。他社製を含めたどの産業機器やベンダーでも「Predix」を使えるよう、オープンにしています。

ビジネスモデルの観点からこの「インダストリアル・インターネット」を見ると、「プラットフォーム型ビジネスモデル」となります。「プラットフォーム型ビジネスモデル」とは、関係する企業や利用者を1つのプラットフォーム(同一の場)に乗せることで、新しい価値を生み出すビジネスモデルです。プラットフォームという言葉そのものは基礎や基盤を指しますが、言及する対象によって意味するものは異なります。例えば、自動車のプラットフォームというと共通設計仕様を意味し、ソフトウエアを実行させるためのプラットフォームという場合は、オペレーティング・システムを意味します。最近は特にインターネットのサービスをプラットフォームということも多いです。

「プラットフォーム型ビジネスモデル」の特徴は、プラットフォームのプレーヤー(参加者)が多いほど、プラットフォームが提供する価値が増し、プレーヤーが享受できる利益が大きくなることです。プラットフォームのプレーヤー数が増えると、価値ある情報やノウハウが蓄積される一方、運営コストの負担割合は小さくなります。「インダストリアル・インターネット」でも、「Predix」をオープンにすることでできるだけ多くの顧客が参加し、ビジネスパートナーが新しいアプリケーションを次々と開発していくようなプラットフォームになることを狙っています。

古い例になりますが、家庭用ビデオ規格であるVHS対ベータの戦いでは、機能や性能面で熾烈な競争はあったものの、結局販売店や系列店の数の差が勝負を左右しました。そして、一旦優位になったVHS方式は一気に市場を奪いました。PCのWindowsもある程度市場で優位に立つと急速にデファクト・スタンダードとなっていきました。このように「プラットフォーム型ビジネスモデル」はできるだけ早く一定の市場規模を確保できることが、勝ち残りの条件となります。そのためには、当初は収益を度外視した価格戦略も必要となりますが、市場で一定規模を確保できればプレーヤーが貴重な情報とともに続々と集まって来るため、価格を主導することも可能となります。

産業機器を対象としたBtoBの「プラットフォーム型ビジネスモデル」は、米国のGE社が着々と構築を進めています。BtoCの「プラットフォーム型ビジネスモデル」においても、同じく米国のグーグル社やアップル社、アマゾン社などが既に競合優位を築いています。しかも、これらの企業は最近産業用ロボットや自動車など、ものづくりの分野までビジネスを拡げてきています。やがて、製造業にも参入し、工場を取り巻くサプライチェーンや設備まで進出する可能性も考えられます。実は、ドイツが国家戦略として、総力を挙げて「Industrie4.0」に取り組んでいる背景には、製造業向けの「プラットフォーム型ビジネスモデル」において米国の企業に先行を許してしまえば、彼らのプラットフォームに組み込まれてしまうという強い危機感があります。

日本においても、最近これら欧米の動向に呼応した、いくつかの取り組みが開始されました。日本の製造業が得意とするものづくりの技術をソフトウエア化し、それらを提供する「プラットフォーム型ビジネスモデル」の実現につながっていくことを期待します。


2015年11月

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