ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2015年10月01日

GE社のものづくり革新

前回紹介したドイツの「Indutrie4.0」以外にも、世界でいくつかの大きなものづくり革新の取り組みが行われています。その一つが米国のGE社のものづくり革新です。

GE社の創業者は、発明王トーマス・エジソンです。GE社はエジソンのDNAを受け継ぎ、これまでも世界初の家庭向テレビ放送やCTスキャナーから火星探索機まで、数々のものづくりにおけるイノベーションを実現してきました。GE社は売上15兆円を超える超巨大企業ですが、その事業構成はここ十数年で大きく変わってきています(図1参照)。以前はジェットエンジンや発電タービン、機関車などの重工業や医療機器、家電などの製造業に加え、金融、メディアなどの事業をもつコングロマリット(複合企業)でした。これまでにメディア、プラスチック、家電などの事業を売却する一方で、航空事業をもつイタリアのアビオ社や発電や鉄道事業をもつフランスのアルスト社などを買収するなど、最近は重工業や医療機器などの産業分野事業に注力してきています。今年、GE社の会長兼CEOジェフ・イメルトはかつての稼ぎ頭であり、利益の4割をもたらす金融事業から事実上撤退し、2018年には産業分野事業が全利益の9割以上を占めるようにしていくとの意向を表明しました。「GE社が一番になれる事業はなにか、今後投資機会が広がり、5%の継続的な成長を導く事業は何か」と熟考した結果が、産業分野事業へのシフトであり、ものづくりへの回帰です。

GE社の事業別利益割合

図1 GE社の事業別利益割合
(出典:GE社アニュアルレポートなどより編集加工)

ここで改めて、GE社がこれからも確実に成長し続ける事業であると選択し、社運をかけて投資していこうとするGE社のものづくり革新とは一体どのようなものか見てみましょう。

GE社が進めるものづくり革新の1つ目は「アドバンスト・マニュファクチャリング」です。3Dプリンター等の新たな製造技術や材料科学により、試作品を素早く、低コストで製作でき、設計や製造を大幅にスピードアップできます。例えば、ジェットエンジン向けの軽量かつ強靭な部品製作が可能になってきています。付加価値の高い技術で製造業の価値を高めていくことで、人件費の安さを求めて工場を海外に移転させる必要なく、作りたいものを作りたい場所で製造できることを目指しています。既にGE社はガスタービンやガスエンジン等発電機器の事業部門においてアドバンスト・マニュファクチャリングを導入した施設を建設し、今後も技術強化のために10年間にわたり4億ドルを投資する予定とのことです。

2つ目のものづくり革新は、設置した産業機器に組み込んだセンサーからインターネットでデータを収集し、これを解析することで産業機器の運用を効率化し、最適化する、「インダストリアル・インターネット」というサービスです。例えば、飛行機の遅延は、地上側で特別なオペレーションを伴い、航空会社にとって大きなコスト増になりますが、飛行中エンジンの状況をモニタリングすることで、トラブルの発生箇所や、メンテナンスが必要な箇所を目的地に着陸する前に知る事ができます。機体が着陸する前に交換部品を特定し、手配することで、短時間で整備を完了できるようになります。また、これまでパイロット個々人の経験やノウハウに頼っていた燃料使用の効率化も可能になります。機体につけられた様々なセンサーから継続的に生み出されるデータを収集し、解析することで、燃費効率の良い最適なフライトパターンを見つけることもできます。これまでもGE社は産業機器の保守サービスなどを提供してきましたが、「インダストリアル・インターネット」のサービスは、顧客企業の事業の収益向上に直接貢献するものです(図2参照)。この「インダストリアル・インターネット」により、航空機エンジンだけでなく、タービンや医療機器など、GE社の産業機器を納入する企業の収益を高めることができるようになります。


GE社のビジネスモデルの変遷
図2 GE社のビジネスモデルの変遷

「ものづくりだけで勝てる時代は終わった。付加価値をいかに高めて差別化していくか」は多くの製造業が悩むところです。GE社は膨大なデータの解析により、ものの能力を引き出すという、ものづくりとコトづくりの相乗効果で顧客企業への提供価値を高めるビジネスモデルをいち早く描き、着々と実現しつつあります。データ解析やソフトウエアを活用するサービスは、当然IT企業にとっても事業機会となり得るのですが、GE社は産業機器のものづくりとデータ解析の両方の能力を兼ね備えることで競争他社に打ち勝つ戦略です。このようなGE社のものづくり革新は、日本の製造業にとっても自社の「ものコトづくり」のあり方を定める上で参考になるでしょう。


2015年10月

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