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2015年09月01日

Industrie4.0の本質
~本質を見極め戦略的対応を!~

ドイツの「Industrie4.0」は“第4次産業革命”と標榜しているように、ドイツ製造業の、ものづくりのイノベーションを目指しています。そのイノベーションの一つは、大幅に生産性を高め、顧客が求める仕様の製品を1個単位で低価格かつ迅速に生産できるプロセス・イノベーションです。もう一つは、世界各国の工場の技術標準をドイツがリードし、機器やモジュールを世界に向けて輸出し、継続的に保守・拡張のサービスを提供していく、国を挙げたビジネスモデル・イノベーションです。「Industrie4.0」はこれから10年~20年かけて実現していくもので、現在はまだ実験プロジェクトの段階です。巧みな情報発信は、ドイツ株式会社が打ち出すものづくりのマーケティング・プロモーションと見ることもでき、その本質を見極めることが重要です。

最近急に増えてきた「Industrie4.0」に関する記事を見ていると、各国関係者が視察に訪れ、海外大手メーカーも実験プロジェクトに参画するなど、日本を含む諸外国が注目していることが分かります。また、アメリカ、中国、フランスなどは、自国でいち早く同様の取組みを予算化し、検討を開始しています。ドイツと日本の成長戦略を比べると、世界各国の注目度は雲泥の差です。

「スマート工場」、「デジタル化」、「IoT」、「自律性」、「分散処理」など様々なキーワードで語られるIndustrie4.0ですが、そもそも何が本質なのでしょうか? 日本の製造業にとって生産の効率化、製造プロセスのオートメーション化は得意分野であり、これまでも精力的に取り組んできました。例えば、CADやPDM、生産管理システムなど、開発・生産のIT活用を進めてきました。工場現場においても、ロボットやセンサー、FA機器を積極的に導入し、ファクトリー・オートメーションにおいては世界の最先端にいると考えられます。また、かんばん方式やセル生産など独自の優れた生産方式を考案し、効率的で柔軟なものづくりを実現しています。

しかしながら、多くの工場においては、図1に示すように受発注等の業務の計画管理を行うERP、生産実行管理を行うMES、さらには生産現場の製造機器を制御するPLCなど階層に応じたシステムが垂直方向に実装されているものの、これら各層はうまく連携できておらず、各層同士のデータ交換も限定的です。同じ工場内であっても、機械のメーカーが異なれば、通信やプログラムの規格はバラバラです。生産ラインごとにシステム化され、個別にオートメーション化が進んだため、生産ライン間が分断状態となっているケースが多々あります。

工場内における垂直方向の情報連携
図1 工場内における垂直方向の情報連携
(出典 ものづくり白書2015より編集加工)

一方、図2に示すようなバリューチェーンにおける水平方向の情報連携もまだまだうまくできていません。例えば、製品設計からのデジタル設計情報を生産現場にスムーズに連携し、情報をフル活用するところまで至っていない企業が多いのではないでしょうか。生産と販売・保守の情報連携も多くの企業にとって課題です。

バリューチェーンにおける水平方向の情報連携
図2 バリューチェーンにおける水平方向の情報連携
(出典 ものづくり白書2015より編集加工)

Industrie4.0が狙いとするのは、顧客の要求仕様に応じた1個単位の生産です。市場の多種多様な需要に応じて生産計画を見直し、機器を適切に制御し、自律的で柔軟な生産を行うことです。このためには顧客やサプライヤーと生産現場を情報連携し、同期させる仕組みが必要です。つまり、業務レベルから製造現場の制御レベルまでの垂直方向とバリューチェーン上の水平方向の2つの情報連携の仕組みがIndustrie4.0の根幹部分と考えられます。そして、これら2つの情報連携の前提となるのが標準化です。色々なメーカーのシステムや機器同士が直接会話するために、通信やインタフェースの標準化が不可欠となります。

Industrie4.0においてキーとなる標準化ですが、これまでは必ずしも思うように進展しなかったようです。どの企業も、これまで自社が培ってきた貴重なノウハウを公開することには躊躇します。特に、ドイツのものづくりに重要な役割を果たしている中規模企業は、標準化への強い懸念があったようです。もうひとつ、機械産業とIT産業の業界団体間の主導権争いも標準化の検討を妨げました。そこで、最近はドイツ政府主導で、ドイツ国内の機械産業やIT産業の各業界団体、経済団体、労働組合なども加わった産官学労一体のオールドイツの布陣を敷いて、その中でドイツ政府がリードしながら標準化の促進を図っています。

標準化は、単にドイツ国内だけではなく、グローバルでの標準にする必要があります。いくら規格そのものが優れていても、国際標準とならなければ、取り組みは失敗に終わります。まずドイツ国内で標準を固め、次に欧州規格の標準として採用され、その後ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)で国際標準にもっていくステップになります。このような標準化の進め方については、ドイツを含め欧州各国はこれまでの実績を見ても一日の長があります。

このようにドイツはIndustrie4.0という明確なビジョンを掲げ、着々と標準化を進めようとしています。この標準化の動きに対して、日本の製造業は「賛同する」のか「対抗する」のか、戦略的に対応していく必要があります。


2015年9月

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