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2015年04月01日

脱・自前イノベーション

企業が競合企業との競争に勝ち残り、成長していくためには、イノベーションがますます重要となっています。そこで、企業は失敗を恐れずイノベーションの取組み数をどんどん増やしていく必要があります。さらに、ますます技術変化のスピードが加速し、お客様ニーズが多様化しているため、新製品・新サービスの市場投入サイクルや開発期間を一層短くしていくことが求められます。しかしながら、企業内を見ると技術者の数は抑えられ、イノベーション創出に必要となる技術やアイデアもなかなか生まれてきません。このように「イノベーション促進のためにすべきこと」と「社内でできること」のギャップが拡がりつつあります。

そこで、これらのギャップを埋めるための有効な施策が、社外の技術・知見の活用です。企業が社内の限られた技術者や保有アイデアのみに頼るのではなく、広く社外の知見を集め、既にある技術を活用することで、イノベーションの取組み数を増やし、スピードを速めることができます。このような施策は「オープン・イノベーション」と呼ばれ、昨今期待が高まってきています。

「オープン・イノベーション」の提唱者であるヘンリー・チェスブロウ教授は、「オープン・イノベーション」とは「企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造すること」と述べています。具体的には、社内で生まれた技術と社外の技術を合わせることで、新製品・サービスを既存市場に投入したり、社内の保有技術を社外を経由したルートを通して新規市場に進出していくイメージです(図1)。


図1 オープン・イノベーションの考え方
(出典: Henry Chesbrowgh著「Open Innovation」 p.183を元に編集加工)

実際の「オープン・イノベーション」例には、社外で考案されたアイデアを改良して事業化する場合もあれば、自社で考えたアイデアを実現・強化する上で足りない技術を社外から探し、社内に取り込む場合もあります。つまり「オープン・イノベーション」は、イノベーション・プロセス前半の新たなアイデアを創出する価値発見に適用できるとともに、後半の価値実現におけるビジネスデザインやビジネス実証でも有効となります(図表2)。このように、社外のアイデアや技術の中から、自社のイノベーションに必要なものを選択し、社内に取り込む「オープン・イノベーション」を活用することで、開発期間を短縮し、失敗リスクも小さくすることができます。



図2 イノベーション・プロセスと社外アイデア・技術活用

日本の企業を見てみると、これまで他の企業や大学との協業を得意としてきました。取引先や得意先とは協力的に分業し、巧みに社外の技術を活用してきました。付き合いのある大学の先生と共同で新商品・サービスを開発するという取組みも行ってきました。業界によっては、“系列〟と呼ばれる特有の企業ネットワークが存在し、商品企画から開発、調達、生産に渡る広い範囲で協業を行っていることもあります。

しかし、これらはどれも限られたパートナーとの協力に基づくものです。これまで付き合いのなかった企業が、新たに系列ネットワークに参入しようとしても簡単には進みません。「オープン・イノベーション」はイノベーションを加速するために、限られた相手との協力に固執するのではなく、必要な技術やアイデアをグローバルで広く探し、活用しようという考え方です。重要なのは「オープン」なことで、これが「オープン・イノベーション」の価値の根源です。「オープン」だからこそ多くの企業が持つ技術やアイデアを見つける機会が増え、タイムリーに最適なマッチングが生まれます。

「オープン・イノベーション」を進めようとすると、まず障害となるのが「NIH症候群」です。一般に技術者は、技術課題は自分で解決するものと思い込み、自前で開発した技術以外のもの(=Not Invented Here)を嫌う傾向があります。経済産業省が数年前に行った、日本の研究開発を行う企業約1000社への調査の回答結果からも、多くの企業がオープン・イノベーションを意識しているものの積極的でなく、自前主義の傾向が強いことが明らかになっていました。 その阻害要因として、「全体的に、自社内で完結させたい意識が強く、コスト意識や経験不足も挙げられる」と分析されています。「NIH症候群」はある種の組織風土の表れと見ることもできますが、これまで日本企業が自前の技術によるものづくりに拘り、外部で開発された技術を評価・活用することを軽視してきたことも背景にあると考えられます

今後、日本企業がイノベーションを加速するためには、自前主義や限られたパートナー企業との協力に拘ることなく、積極的に「オープン・イノベーション」に取り組む必要があると考えます。

次回は「オープン・イノベーション」の事例を見てみます。


2015年4月

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