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2015年02月01日

イノベーションを担える人とは

日本政府は成長戦略を最優先課題として掲げ、日本の各企業でもイノベーションの創出や加速の必要性が声高に叫ばれています。海外企業と比べても、日本の企業は多くの優れた技術を持っています。しかし、このような掛け声や期待に比べると、残念ながらイノベーションはまだ十分進展していないようです。イノベーションも比較的小粒なものに止まり、新たなビジネスモデルを生み出すようなラディカルなイノベーションはあまり見かけません。

イノベーション創出を属人的才能や偶発性に頼るのではなく、組織的・継続的に創出していくためには、イノベーション・プロセスを確立し、それを実行できる人の育成が必要となります。実際にイノベーション創出を担う人は、新規事業部門や企画部門、開発部門など企業により所属部門は様々です。最近は、社内の新規事業アイデア募集で選ばれたチームがイノベーションの実行を任されることもあります。このことからも、イノベーション創出を担う人が持つべき知識・能力は定まったものがないのが実態です。一方、前回のコラムで説明したように、イノベーション・プロセスを実行することは、そんなに容易ではありません。今回は、イノベーション・プロセスの実行を担う人が持つべき知識や能力について、考えてみたいと思います。

まず、イノベーションを牽引する人に何より求められものは、イノベーションに対する熱い「思い」や社会貢献に向けた確たる「姿勢」であることは前回のコラムで述べた通りです。これは知識や能力とは言えませんが、イノベーションを担う人にもっとも必要なものです。次に、基本的なものとして、イノベーションを担う人は、関係する業務や業界、テクノロジーに関する知識や経験を一通りもっていることが求められます。

特にプロセス前半の価値発見では、特定の価値観や経験を持つ人だけでは斬新なアイデアが出にくいため、多様な価値観や専門性、バックグラウンドを持つ複数の人が携わることが有効です。組織や技術領域の垣根を越えた異質なものの融合が、価値発見に欠かせない発想の広がりや多様性をもたらします。異なる知識や考え方を組み合わせたり、異質なものを掛け合わせたりすることで知の化学反応が起こり、全く新たな発想を産み出し、ラディカルなイノベーションのアイデアも期待できます。会社内のアイデア出しでも、ブレーンストーミングや「わいがや」が有効であることを実感されている方は多いのではないでしょうか? そして、このような場において、多様な意見を引き出し、議論を活性化する「ファシリテーション力」の重要性もお分かりになると思います。

では、イノベーション・プロセスを担う人がもつべき「コアとなる能力」は何でしょうか。下図に示すように、イノベーション・プロセス実行においてコアとなる能力は、プロセスの前半と後半で異なります。イノベーション・プロセス前半の価値発見においては、無関係なものや末節の部分を取り除き、課題の本質や真の価値を見極めていく必要があります。そこで前半の価値発見では、概念化や一般化を行う「抽象化力」がコア能力となります。一方、プロセス後半の価値実現では、アイデアを具体化し、市場におけるビジネス化を検証していく上で求められるコアとなる能力は「具体化力」であり、具現化、実践化する能力と見ることができます。


図 イノベーション・プロセスを担うコア能力
図 イノベーション・プロセスを担うコア能力


このようにイノベーション・プロセスでは、前半と後半で求められるコア能力が異なるため、必ずしも同じ人が両方をリードするのではなく、それぞれを別人が担う体制も合理的です。例えば、グーグル社を創業した若い二人のエンジニアは前半の「抽象化力」に優れていたので、後半に必要な技術とビジネスに明るい「具体化力」を持つ事業経験者を迎え入れ、3人のチーム体制で会社をスタートアップさせたと見ることができます。他のベンチャー企業においても、イノベーションに対するアイデアと熱意をもつ発案者と、ビジネスとイノベーションのバランスの重要性を認識している番頭格の人が二人で異なる役割を担い、成功している例を見かけます。

日本企業がイノベーション創出を加速し、継続していくためには、イノベーション・プロセスを実行出来る人材が不可欠です。しかし、このイノベーション創出を担う人材を育成するには、従来の人材育成プログラムや制度では不十分であり、日本の企業は戦略的に育成の仕組みを整備していくことが必要です。

次回は「イノベーションを促進する組織、阻害する組織」について話をしたいと思います。


2015年2月

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