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2015年01月01日

イノベーションを難しくする3つの特性

前回のコラムで、4つのステップからなるイノベーション・プロセスを紹介しました(図表1参照)。今回はこのイノベーション・プロセスについて考察します。まず、各ステップを順に見てみましょう。


図表1 イノベーション・プロセス例
図表1 イノベーション・プロセス例


最初のステップ「市場の理解」は、仮説や課題を出発点として、対象とする市場やそこで生活する人々、製品の利用シーンを理解します。実際に観察したり、直接経験することで、「理解」を超えて「共感」できるようになることが目標です。次の「価値発見・選択」ステップでは、対象の理解から、分析や洞察を通して、アイデアの抽出や定義を行います。 本当に価値あるアイデアを着想し、構想を練っていき、有望なアイデアに絞り込んでいきます。イノベーションにつながる有望なアイデアが見出されたとしても、アイデア止まりになってしまっては意味がありません。実際に事業に仕立てていくために、3番目の「ビジネス・デザイン」ステップで、アイデアを実現するビジネスモデルの姿を描きます。そして、最後に「ビジネス検証」ステップで、ビジネスモデルの成長性、収益性、戦略性、実現リスクなどの基準をクリアできるようになれば、晴れてイノベーション・プロセスを卒業し、事業化に進むことになります。

イノベーション・プロセス実行の際には、次の3つの特性に気をつける必要があります。

特性1:「思い」の強さが成否を左右

イノベーション・プロセスの実行を通して、「社会に貢献したい」、「人々の生活を改善したい」といった「○○したい」という強い「思い」がないと、イノベーションは起きにくいと言われています。3M社の研究者が、「よくくっつくけど、簡単に剥がれてしまう」接着剤の失敗作を作ってしまい、なんとかその用途を見つけようと困り果てていたところ、ある日教会で賛美歌集のページをめくると、目印にしていた栞が落ちてしまったのを見て、ポストイットのアイデアが生まれました。「あ、コレだ!」という発想やひらめきは、課題意識や執着などの「思い」から生まれます。

特性2:プロセスがスパイラル

イノベーション・プロセスはステップ順次実行型ではなく、なかなか手順どおりいかず、何度も繰り返しが行われるスパイラル型です。前回、イノベーション・プロセスは手順通り実行しても成功を保証するものではなく、成功の確率を高めるガイドだとお話ししました。ものづくりプロセスは「儲かるものを早く市場投入する」ための順次実行型プロセスなのに対し、イノベーション・プロセスは「早くアイデアを見つけ、早く目利きする」ためのスパイラル型プロセスだと見ることができます。

特性3:ステップが独立していない

プロセスは,一般的には各ステップのインプット/アウトプットや終了条件が決まっています。例えば、システム開発プロセスでは、各局面でアウトプットすべきもの、次の局面にインプットとして引き継がれるものが明確に定義されています。一方、イノベーション・プロセスには、どうしてもアート或いはアナログ的な要素が存在し、ステップ間の遷移が曖昧になり、ステップを独立させることが難しい面があります。

イノベーション・プロセス実行を難しくするこれらの特性を見ると、「そもそもイノベーション・プロセスを定義する意味があるのか?」と疑問を抱く人がいるかもしれません。この疑問に対する答えは、「イノベーション・プロセスは、どうしても混沌となりがちで、うまく進めることができないからこそ、プロセス定義が必要とされる」となります。イノベーション・プロセスを定義することで、関係者は自分たちが今どのステップにいて、次に何をすべきかを共通認識とすることができます。さらに、プロセスを定義することで、イノベーションの仕組みを構築し、継続的に仕組みを改善していけます。このように3つの特性を意識してイノベーション・プロセスを実現して行くことで、イノベーションの確度を高めることができるのです。

イノベーション・プロセス実行を難しくする特性に対し、成功確率を高める有効策の一つが、イノベーション・アイデアを適切に評価する「メトリックス(定量化指標)」です。「ステップを次に進めてよいか、前に戻るべきか、或いは諦めて中断すべきか?」といったプロセスの意思決定ポイントで、的確にGo or Noを判断していくための拠り所が「メトリックス」になります(図表2「イノベーションのメトリックス例」参照)。

図表2 イノベーションのメトリックス例
図表2 イノベーションのメトリックス例

このように定量的指標で白黒をつける意思決定は、日本企業の文化には馴染まないかもしれませんが、イノベーション・プロセスでは積極的に利用していくことが有効と考えます。

次回もイノベーションの仕組みについてお話しします。

 

2015年1月

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