ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2014年07月01日

ものづくり力を活かすマーケティング

ビジネスシーンや新聞記事などで「マーケティング」という言葉をよく見かけますが、その意味するところは様々です。例えば、「新聞や雑誌、テレビを使った製品の宣伝や販売促進」、またある時は「製品に関する市場調査」、「見込み客への営業」といったことが、すべて「マーケティング」と呼ばれています。それでは、本来、マーケティングとはどのような意味なのでしょうか?

マーケティング論の第一人者であるフィリップ・コトラー教授によると、「マーケティングとは、個人やグループが、製品及び価値の創造や交換を通じて、ニーズやウォンツを満たす社会的/経営的プロセスである」と定義しています。また、マーケティングの具体的な進め方についてもコトラー教授は「マーケティング・プロセス」として提示しており、それは図1上に示すステップで表すことができます。これらの定義からすると、上で挙げたいくつかの例は、マーケティングの一部の機能ではあっても、本来のマーケティング全体を表していません。

図1マーケティングプロセスとものづくりプロセス

ではマーケティング・プロセスのステップを見てみましょう。最初の「市場調査」ステップでは、市場機会を探します。市場を理解せずに市場参入することはあり得ません。次のステップでは、「どこで戦うか」を明確にします。市場を分割し(セグメント化)、標的とする市場セグメントを決定し(ターゲティング)、どんな価値を提供するか(ポジショニング)を明確にします。3つ目は「マーケティング・ミックス設計」ステップで、いわゆる4P(Product、Price、Place、Promotion)の最適構成で「どう戦うか」を設計します。Productというのは製品の機能や性能だけではなく、サービスやソリューションまで含み、Priceはその価格や取引条件を意味します。また、Placeは製品・サービスをお客様に届けるチャネル(ビジネスパートナーやネットワーク)やカバレッジ、立地を意味し、Promotionは広告やイベントなどの販売促進及び営業力を含みます。4つ目以降のステップでは、このようにして立案されたマーケティング戦略を実行し、その結果を評価し、次の戦略立案にフィードバックしていきます。

マーケティング・プロセスの実践においては、戦略思考が必要です。戦略とは、どこで戦うかを決めること、裏返して言えば、どこで戦わないかを決めることです。多様なお客様ニーズに応じて市場をセグメント化し、狙いとするセグメントをできるだけ絞っていきます。絞ることで、競争力を高めやすくなります。さらに他社とどう差別化するか(ポジショニング)を明確にしていきます。お客様が高く評価する、ユニークな機能的価値や意味的価値を持つ製品・サービス・ソリューションをいかに提供していくかがポイントです。また、市場・お客様のニーズ、ウォンツを常に思考の軸に置く必要があります。一般的に、技術者は製品の機能や性能を偏重する傾向がありますが、マーケティング・プロセスでは、市場・お客様が何を求めているのか、他社とどう差別化するのかを常に念頭に置きつつ、ロジカルな思考でシステマティックに戦略を立てていきます。ただし、ロジカルさだけでなく、ひらめき、フィーリングなどをプロセスに組み入れていくことも必要です。

マーケティング・プロセスで決められた製品仕様やその差別化ポイント、提供すべき価値は、ものづくりプロセスに受け継がれます(図1下のプロセス参照)。これまでの日本のメーカーは、「自分たちが良いと信じるものがお客様の求める製品である」と思い込み、高機能、高価格のものづくりをひたすら追い求め、気が付けば極めてシンプルで安価な製品に市場を奪われていることがありました。このように、「強いものづくり力があるのに売れる製品をタイムリーに出せない」、あるいは、「世界の競合において、製品の競争力が低下している」ことの一因に、日本メーカーのマーケティング力の弱さがあります。そして、この背景には、どの国にも負けない日本のメーカーのものづくりの強さがあります。これまで、事業の方向性をリードするのはものづくりをする技術者で、ほとんどの日本企業においてマーケティングの存在感は薄く、マーケティングの認識も冒頭で述べたように断片的なものでした。しかし今後は、日本のメーカーが誇る「ものづくり力」を活かしていくためにも、もっとマーケティング力を磨いていく必要があると思います。

次回はマーケティング・プロセスについてもう少しお話します。

 

2014年7月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読