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2014年06月01日

「擦り合わせ力」と製品アーキテクチャ

今回は製品アーキテクチャについて話します。一般にアーキテクチャという言葉は、機能や構造の基本構成を指し、製品以外でも建造物、情報システム、そして組織やサービスなどにも使われます。製品アーキテクチャという時は、製品の機能と構造の構成、そして機能と構造の相互関係に関する基本設計を意味します。

製品アーキテクチャは、モジュラー型とインテグラル型の2つでよく対比されます(表1.製品アーキテクチャの2つの型 参照)。

製品アーキテクチャの2つの型
表1.製品アーキテクチャの2つの型
(藤本隆宏著『日本のもの造り哲学』日本経済新聞出版社を参考に作成)

モジュラー型とは機能と構造が1対1に対応付けられるアーキテクチャです。このモジュラー型アーキテクチャでは、構成間の相互関係をできるだけ単純化・標準化し、玩具のレゴのように容易に様々な組合せができることを目指します。モジュラー型アーキテクチャの製品としてよく例に出されるのは、デスクトップ型パソコンです。パソコンの製品アーキテクチャでは、処理、記憶、保管、表示といった機能とCPU、メモリ、ハードディスク、ディスプレーといった構造がそれぞれ1対1で対応しています。構成間も標準化されているので、使用者はメモリやディスプレーを好みに応じて、簡単に別ものに付け替えることができます。

もう一つのインテグラル型アーキテクチャは、モジュラー型とは対照的に機能と構造が錯綜し、その関係が複雑なものです。インテグラル型アーキテクチャの代表的製品としては自動車が挙げられます。自動車のエンジンやブレーキ、サスペンション、タイヤといった部品構造は、走行、停止、緩衝といった機能と錯綜して絡んでおり、相互関係も複雑です。このためインテグラル型アーキテクチャはモジュラー型アーキテクチャに比べ競合他社に模倣されにくく、大事な技術を「ブラックボックス化」することができます。

インテグラル型アーキテクチャ製品の開発・生産においては、部門間の相互連携や現場での調整、そのための密接なコミュニケーションや情報共有が必要となります。このような高度の連携・調整能力こそ、日本のものづくりが得意としてきた「擦り合わせ力」に相当します。これまで日本メーカーが「擦り合わせによるものづくり」を強みにしてこられたのは、欧米流のはっきりした分業・責任体制に対し、日本流の曖昧な責任を許容する文化や、グレーな役割も互いにカバーし合うチームワークの良さが要因と考えらます。さらに、これらの背景にある日本特有の終身雇用やサプライヤーとのウエットな関係が「擦り合わせ力」を育んできたとも考えられます。

しかし、昨今は日本メーカーの開発・生産部門がどんどん海外拠点に移管され、日本で通じた考え方やチームワークが機能しない環境になってきています。また、終身雇用を堅持する日本メーカーは段々少なくなり、サプライヤーとの関係も以前に比べドライなものになってきています。こうなると日本メーカーが得意としてきた「擦り合わせ力」は段々低下していく懸念があります。一方では、日本メーカーが新興国市場を中心としたグローバル展開を推し進めるには、製品の低コスト化と多様化という難しい要件に対応していく必要があります。こうなると日本メーカーは大局的にはモジュラー型アーキテクチャを指向していかざるを得ないと思われます。インテグラル型アーキテクチャの代表例として取り上げた自動車を見ても、日本メーカーの多くがすでにモジュラー型アーキテクチャに取り組みつつあるようです。

これまで日本メーカーは、ものづくりに対する自信や自社技術の「ブラックボックス化」への拘りから、モジュラー型アーキテクチャへの取り組みが遅れていたようですが、そろそろモジュラー型アーキテクチャにも積極的に取り組む段階にきていると思われます。複雑な構造の製品に対して、市場ニーズの将来変化への対応性、多様化への拡張性、開発・生産の効率性、サービスでの保守性など、多面的に優れたモジュラー型アーキテクチャを創っていくことは容易でなく、手間もかかります。同じモジュラー型アーキテクチャといっても、その巧拙が製品バリエーション力、コスト低減度を左右します。

そこで一案ですが、日本メーカーがこれまでお家芸としてきた関係部門の「擦り合わせ力」を活かして、国内の部門横断体制で最適な製品アーキテクチャを効果的に創っていき、それを海外開発・生産拠点に展開することができれば、ものづくりの強力な武器になるのではないでしょうか。モジュラー型アーキテクチャに取り組むにしても、先行する欧米競合メーカーに勝てる日本メーカーなればこそのモジュラー型アーキテクチャを創っていきたいものです。

次回はマーケティングをテーマにする予定です。

2014年6月

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