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2014年05月01日

マス・カスタマイゼーション推進 『5つの課題』

多様化と低コストが求められるグローバルビジネスで競合していくために、自動車業界では「モジュール化」、「メガプラットフォーム化」といったマス・カスタマイゼーションへの取り組みが顕著になってきています。しかし、マス・カスタマイゼーションを進めていくのはそう簡単ではありません。今回はマス・カスタマイゼーションを推進する上で克服すべき課題について、自動車業界をモデルに考えてみます。

1.アーキテクチャ設計のノウハウ蓄積
「モジュール化」、「メガプラットフォーム化」を実践するためには、向こう10年程度の車種展開で通用するアーキテクチャを最初に設計し、確定させることが先決です。車種共通のモジュールと車種の多様性を実現する可変部品によって、新車開発を低コスト・短期間で行っていけるアーキテクチャ、より多くの組み合わせを可能にするアーキテクチャとなるように設計する必要があります。モジュールの分割やその連結ルールの設計を戦略的に行っていくのですが、この共通化と可変部分のさじ加減が難しく、ノウハウの蓄積が必要です。これまでは開発と並行して解決していけた問題も、最初のアーキテクチャの設計段階で解決しておく必要があります。このようにアーキテクチャ開発には高度な設計力が求められ、その分初期コストは大きくなります。アーキテクチャ採用により個々の車種開発コストは低減されますが、アーキテクチャ開発に必要な初期コストを回収するためには、年間数百万台規模の自動車を生産し、販売できることが条件になると言われています。

2.現場抵抗に屈しない開発プロセス再構築  
車種ごとに設計・生産を順次繰り返していく、従来の個別最適プロセスをゼロベースで見直し、マス・カスタマイゼーションを実現する全体最適プロセスを新たに構築する必要があります。マス・カスタマイゼーションのプロセスでは、最初に特定のエンジニア・チームがそのアーキテクチャを設計し、各車種担当のエンジニアは決められたアーキテクチャに基づいて開発することが求められます。アーキテクチャが確定するまでは、当然、個別車種の開発を始めることもできません。これまでは車種ごとの開発エンジニアが設計の権限を持っていたため、開発エンジニアの大多数は、従来の慣れた開発手法を変えることに否定的な態度を取ります。従って、マス・カスタマイゼーションへの転換は、開発現場に任せっぱなしではうまく進みません。ある日本の自動車メーカー幹部が「会社を作り直す覚悟でやれ」と檄を飛ばしているように、開発エンジニアの反発に屈することなく、彼らの考え方・仕事の仕方を変えていく粘り強い推進力と強力なリーダーシップが必要となります。

3.避けられない大規模リコール
部品の共通化は車種や地域をまたいだ、大規模リコールにつながるリスクがあります。最近のニュースでも、部品共通化の進展により、これまでに類をみない規模のリコールが発生しています。マス・カスタマイゼーションの推進と同時に、品質の向上を両立させていくのが課題となります。

4.サプライヤーとのドライな関係
マス・カスタマイゼーション推進には、グローバルに生産拠点を持ち、主要部品を一括供給でき、スケールメリットを生かしてコスト低減要求に応えてくれるメガサプライヤーが必要となります。つまり、否が応でも特定サプライヤーへの依存度が高まることになるのです。また、これまでは車種ごとに開発初期段階からサプライヤーとすり合わせを重ねるのが常でしたが、アーキテクチャ化により頻繁なすり合わせは不要となります。このようにマス・カスタマイゼーション推進は、自動車メーカーとサプライヤーの系列による関係を大きく変えていきます。

5.コモディティ化のリスク
モジュール化が進み、標準部品の使用が増えてくると、個々の車種の特性を出し難くなります。カスタム化が難しくなり、自動車の個性が失われていくとコモディティ化し、価格競争へと繋がります。もちろん、自動車はパソコンやカラーテレビのような単純なモジュール構造にはなり得ないし、自動車エンジンがパソコンのCPUのように標準化することはまずあり得ないでしょう。しかし、電気自動車の普及や部品のデジタル化が進むと使用部品も数が少なく単純になり、標準部品の割合が増えてくるとコモディティ化のリスクは高まっていくと想定されます。

グローバル競争に勝ち残るために上記の課題を克服し、マス・カスタマイゼーションによる「ものづくり」に転換していくことが自動車業界の潮流のようです。当然、自動車以外の業種においても、マス・カスタマイゼーションを導入あるいは進化させる企業が増えてくるでしょう。そして「ものづくり」強化と同時に各社が注力しているのが、マーケティング、デザイン、ブランドと言った「コトづくり」です。(図1「ものづくりとことづくりの強化」参照)

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図1.ものづくりとことづくりの強化

次回は製品のアーキテクチャについて考えてみます。

2014年5月

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