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2014年04月01日

自動車業界の新たなマス・カスタマイゼーション

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今回は自動車メーカーにおける新たなマス・カスタマイゼーションへの取組みについてお話します。まず自動車のグローバル全体の販売台数推移は過去15年、リーマンショックを除いて右肩上がりで成長してきており、昨年実績では年間8300万台を超えています。今後もこのまま成長を続け、2025年のグローバル自動車販売台数は1億2500万台に達する見通しです。しかし、市場の成長性は先進国と新興国で大きく異なります。リーマンショックから5年以上経ちましたが、先進国の自動車販売台数はリーマンショック前の9割未満の頭打ち状態で、今後もこの数字を維持するのが精一杯のようです。一方、新興国市場の販売台数はリーマンショック前のほぼ倍近いレベルで急成長しています。この結果、2000年には2割程度だった新興国市場の割合は、最近では5割を超えています(台数ベース)。昨年末のコラムで「新興国市場の拡大は私達の想像以上に加速していく」といいましたが、自動車市場ではその傾向が顕著に表れています。

新興国市場において、販売台数増加の中心となるのが新中間層です。この新中間層は家計所得5000ドル~1万5000ドルの貧困から脱した下位中間層と1万5000ドル~3万5000ドルのレジャーを楽しむ余裕のある上位中間層からなり、特に上位中間層の人口は2010年の2.5億人から2030年には8.9億人へと急激に増える見込みです(図1)。この上位中間層を多くの自動車メーカーがターゲットにしていますが、上位中間層だけでなく下位中間層まで積極的に取り込む戦略をとる自動車メーカーもあります。いずれにせよ、これら新中間層に対する販売台数を伸ばすには、低価格(低コスト)が必要条件となります。

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図1.グローバルの新中間層人口の推移
ソース:新中間層獲得戦略(新中間層獲得戦略研究会 平成24年7月)を元に編集加工

もちろん、単に安ければ売れるほど甘くはありません。この新中間層の市場には日欧米の自動車メーカーがこぞって参入し、現地メーカーとも競争しなくてはいけません。その競争に打ち勝つには各国固有のニーズに合わせた価格や仕様、性能の車をいち早く販売することが求められます。

例えば、家族の多いインドネシアでは7人乗りが好まれ、インドでは車高が高いSUV車が人気があるようです。消費者の好みに応じたデザインも重要な選択条件です。また、消費者ニーズへの個別対応だけでなく、各国の高速道路の制限スピードや道路整備状況に応じた性能や装備も必要です。エネルギー問題や大気汚染の問題に対して各国が求める環境規制への適合も参入条件となります。

このように仕様、性能、デザイン面での多様化と低コストの両立が求められる中で、これまで自動車メーカーはプラットフォーム(部品を載せていくための車の骨格)に基づく開発・生産を行ってきました。同じプラットフォームを使えば、複数車種の部品や生産ラインを共通化できます。しかし、プラットフォームに基づく開発・生産では、サブコンパクト、コンパクトやミディアムといったセグメントごとでの共通化に留まり、グローバル市場で求められる低コスト化と多様化への対応には限界があります。

そこで最近では、これまでのプラットフォームよりさらに進化した「メガプラットフォーム」と呼ばれるマス・カスタマイゼーションへの取組みが必要となってきています。 「メガプラットフォーム」とは従来のプラットフォームよりも広範囲にセグメントをまたがって部品や生産ラインを共通化することを意味し、プラットフォームをモジュール(集合体)単位に細分することで共通化の拡大を図っていきます。

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図2.プラットフォームとメガプラットフォームのイメージ比較

「メガプラットフォーム」の取組みでは、長期的な自動車製品の展開計画に基づき、それらの製品を最低限のモジュールの組合せで開発・生産していきます。 更に、製造ラインの共通化も目指しており、一つの製造ラインでセグメントの異なる車種を製造したり、先進国の製造ラインをそのまま新興国に持っていき、新興国向け仕様の車の生産を素早く立ち上げることも可能になってきます。数年前から大手欧州系自動車メーカーが先行してこの「メガプラットフォーム」に取組んでおり、量産コストを抑え、多様な自動車を開発する期間や費用の縮小などの実績が既に出ているようです。最近は日本の自動車メーカーもプラットフォーム統合や「メガプラットフォーム」に取組む動きが出てきています。

「メガプラットフォーム」の取組みは、自動車業界だけでなく、他製造業の今後のものづくりのヒントになります。しかし、 「メガプラットフォーム」を進めていくには克服すべき新たな課題もあります。次回は課題面について考えてみます。

2014年4月

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