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2011年07月01日

経営コックピットを実現するMESとは?

皆さんの会社で、基幹システムを更新して、ERPパッケージや生産管理・原価管理システムを導入したものの、期待した効果がなかなか出ないといったことはありませんか?企業全体の経営資源の有効活用を目指すERPでは、システムに取り込まれる情報量が少なければ、経営判断を正しくするために必要な情報を把握することができません。その結果、システム化の狙いが達成できず、周りから「失敗」と言われるケースが多々あるようです。

このような問題を解決する手段のひとつとして、近年注目を集めているのが「MES」というシステムです。日本語名では、「製造実行システム」と呼ばれています。
これから全6回にわたり、MESを導入することのメリットや課題などをご紹介いたします。

第1回 経営コックピットを実現するMESとは?
第2回 日本の製造業におけるMESの有用性と考慮点
第3回 MESパッケージいろいろ
第4回 MES導入の事例1 ~実績収集がもたらした思わぬ効果~
第5回 MES導入の事例2 ~誤出荷ゼロの実現~
第6回 まとめ

この6回を通じて、皆さんがMESのご理解を深められ、導入する際の考慮点やゴールの設定を考えられるヒントにしていただければ幸いです。

MESとは?

先ほどのERPのケースのように、せっかく新たに導入した仕組みでも期待される効果を発揮していないケースの原因の中に、以下の2点があります。

1点目は、システムに取り込まれる情報量が少ないことです。しかし、情報を多く取込もうとすると反って現場への負担が大きくなり、阻害要因ともなり得ます。
2点目は、生産現場とERPなどの管理業務システムの間には、一致しない動きが生じることがあることです。例えば、特急品の対応が必要になった場合、生産現場ではリアルタイムに生産体制を変更しなければならず、管理業務システムからの指示とは違った動きをしなければなりません。実績を入れたくても、管理業務システムでは、その対応ができないといった状況が起こってしまいます。

これを解決するのが、生産現場と管理業務システムの溝を埋める「MES」です。
「MES」は、「Manufacturing Execution System」の略語で、日本語は「製造実行システム」と訳されています。'90年代に米国の調査会社であるAMR Research社が提唱したものが原型となっています。
最近では、製造業がグローバル化の波にさらされてきていることから、「MES」という言葉も次第に浸透してきています。

学術的に見たMES

AMR Research社は、1992年に製造業の「3層モデル」を提唱しました。

1. 計画層(Planning Layer)
2. 実行層(Execution Layer)
3. 制御層(Control Layer)

この3層のうち、「計画層」と「制御層」の間に存在する「実行層」にあたる仕組みとしてMESが位置づけられています。「計画層」はERPやSCM(Supply Chain Management)などの代表的なBusiness Planningのシステムであり、「制御層」ではPLC(Program Logic Controller)やWMS(Warehouse Management System)などが相当します。

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図1.製造業の「3層モデル」

MESとは、平たく言うと、「基幹業務システムと制御システムの受け渡しをするシステム」です。
制御システムは、ON/OFFの信号処理によって設備を動かしたり、データを貯めたりします。つまり、1か0の集合体です。一方、基幹業務システムでは、製品を100個生産すると登録されます。この0・1を100に変換したり、逆に100を0・1に変換したり、2つのシステム間の通訳をする役割をMESは果たしているのです。

MESがなければ

では、MESがないと、どのようなことが起こるのでしょうか。組立製造業における製造実績がERPに反映されるまでをイメージで説明いたします。

まず、製品が完成するまでに、下図のような加工や組立、検査の工程があるとします。

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図2.組立製造業における製造工程のイメージ

ここでは、MESによる製造実績を収集するシステムがないため、各工程にかかった作業時間や歩留りなどの実績は、紙に記録され、一日の最後にERPシステムに登録後、夜間バッチ処理により翌日反映されることになります。

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図3.製造実績をERPへ登録するイメージ

この例の場合、生産実績すら翌日にしか分からず、また転記ミスの発生により正確な情報が取れない危険性さえ含んでいます。このような状態では、納期遅れ、原価把握ができないなどの課題が出てくることになるでしょう。

上記の例以外にも、以下のような製造現場とERPとの間に人間の手が介在している部分が皆さんの業務の中にもあるのではないでしょうか。
  • 入出荷業務でも手書き伝票を記入して、あとでシステムにインプットしている
  • 自動倉庫からの出庫は、ERPから出力された出荷指示を見ながら、自動倉庫システムにインプットし直している
  • FAXで受け取った注文伝票を、受注システムにインプットし直している。
「経営コックピット」といわれる時代、経営者は異常の兆候などに素早く気づき、正しい意思決定を下すことが求められています。MESを導入すると、製造現場(制御層)とERP(計画層)との間で双方向に行き交う製造指示や実績などの情報をリアルタイムに受け渡しし、人の手を介さず、正確な情報を反映させることが可能となります。

MESの11機能

1992年に設立されたMESの促進団体であるMESA Internationalは、MESを次の11機能にまとめています。これらの機能の実現方法は業種や製品の種類により様々です。

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図4.MESの11機能の図
出典:中村実・正田耕一、『MES入門』(工業調査会、2000年)、34ページ

MESの全ての機能を本格的に実現しているのは半導体製造業界です。半導体製品は、塵などが舞ってしまうと、製品の品質に影響するため、製造工程のほぼ全てを自動化しています。また、食品業界や薬品業界も、「HACCP」や「薬事法」といった法規制により、ロットトレース(MESの機能でいう「製品品質管理」)を非常に厳格に推進しています。

一方、機械や電機などの加工・組立製造業界においては、MESへの取り組みはまだ少なく、今後導入が進んでいくものと思われます。これまで、日本国内の加工・組立製造業には優秀な製造現場が存在し、基幹業務システムからの指示を人が理解して柔軟に対応を行ってきました。しかし、海外でのモノづくりが加速する中、海外拠点で日本と同様な製造現場を育成し、日本との時差を乗り越え、正しく指示を出し製造することには限界があり、MESの活用は必要不可欠となるでしょう。
海外でのものづくりでは、MESの概念に物流の概念を加えたLES(logistics Execution System)がありますが、これは、最終回でお話しいたします。

次回は、MESの11機能の説明と合わせて、MESの有用性と導入の考慮点について述べます。

2011年7月

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