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2017年04月01日

AIとものづくり②
IoT本格化で拡大するAI活用

今回は、最近注目されているAIが、ものづくりの現場でどのように活用されようとしているかを見てみます。ものづくりにおけるAI活用は、新製品の「開発・設計」分野、その製品の「生産・販売」分野、そして「製品そのもの」の3つの分野で行われています。AI活用状況はこれらの分野によって少しずつ異なっています(図1)。

ものづくりにおける3つのAI活用分野"
図1.ものづくりにおける3つのAI活用分野

これらの分野の1つ、「製品そのもの」へのAI活用の例としては、以前のコラムで取り上げた自動車の完全自動運転のためのソフトウエアやGE社ジェットエンジンの故障予知のためのPredixが有名です。これらを見ると、「製品そのもの」へのAI活用は、コトづくり、そして製造業のビジネスモデル・イノベーションにつながるものです。そこで、「製品そのもの」へのAI活用は後日詳しく取り上げることにし、今回は「開発・設計」「生産・販売」の2つの分野に焦点を当てます。

「生産・販売」分野のAI活用は、多くの実用例や実証実験があります。製造現場には、組立、搬送、塗装、加工などを行う産業ロボットが導入されていますが、従来の産業ロボットは、事前にプログラムされた通りにしか対象物を扱うことができません。しかし、AIが搭載された産業ロボットは、部品の組み付けや、搬送、検査、梱包など色々なことを、短時間で学習できるようになります。さらに、たとえ対象物が規定通り置かれていなくても、柔軟に対象物を掴み、位置決めをし、正しい場所に配置する応用力があります。製造現場では頻繁に起こる変更や想定外の事象に応じて、産業ロボットが自律的に作業を修正できるレベルまできています。

たとえば、無造作に箱に入れられた部品を掴み出す場合、従来のロボットでは、熟練した技術者が、部品の掴み方や、うまく掴めないケースの対応など1から10まできめ細かく教えておく必要がありました。部品の形状が変わる都度、特別なスキルを持った技術者が何日もかけて教え直さねばならず、大きなコストがかかっていました。しかし、AIを活用すると、大量のデータを与えることで、AI自身がアームの差し込み場所や掴み方を短時間で学習し、高精度に部品が取り出せるようになります。また、製造現場を走り回る搬送ロボットは、これまでマーカーやレールに従い、あらかじめ決められたルートでしか走行できませんでした。これがAIを搭載することで、工場内のレイアウトを自動認識し、周囲の人や他の搬送機を自動検知できるようになり、人と協調したスムーズな搬送が実現します。

「生産・販売」分野のその他のAI活用には、需要予測や在庫計画の最適化、製品検査や倉庫業務そして設備保守の作業効率化などがあります。AI活用では、学習に使えるデータの量や質がその性能を左右します。日常的に大量のデータが生まれる「生産・販売」分野は、今後も色々なAI活用が現れてくると期待できます。

次に、「開発・設計」分野では、過去の設計データからの学習により、製品設計にAIを活用している例があります。熟練設計者による過去の設計データを基にAIが学習し、そのノウハウを設計支援ツールとして組み込むことで、経験の浅い設計者でもレベルの高い設計ができるようになります。熟練設計者が経験則から多くの要素を総合的に判断しつつ、数百時間かけて行う設計作業ですら、AIが学習し、高い精度で代行することができます。また、製品開発においても、膨大な量の顧客の声や購入履歴から要因を抽出し、新製品コンセプトの立案にAIが活用されています。「生産・販売」分野に比べ利用可能なデータが少ないためか、「開発・設計」分野のAI活用事例はまだ多くありません。この分野でのAI活用を推進するには、設計データの規格を整備し、標準化し、AI活用事例を増やしていくことが必要と考えられます。

これまでも、ものづくり現場で生み出されるデータは宝の山であり、それを活用できれば、業務改善や生産性向上につながると認識されていました。このためにBI(ビジネス・インリジェンス)ツールを導入し、人がデータ分析やデータマイニングを行うことで、内在するパターンや特徴を見つけ出してきました。しかしながら、IoTが本格化してくると、センサーなどのIoTデバイスが急増し、そこから収集されるデータは膨大な量のビッグデータとなってきます。そうなると、いくらBIツールを駆使しても、人が推論し、判断するのには限界があります。そこで、人がBIツールで行ってきた仮説検証や推論を自動で行うのがAIです。AIを使えば、人が行うパターン分析や特徴抽出といった知的作業の代行だけでなく、人よりもさらに深い分析を遥かに速く行うことが出来ます(図2)。

IoT本格化にともなう変化
図2.IoT本格化にともなう変化

今まさに、ものづくりでのIoTが本格化しようとしています。そこでAIとビッグデータを表裏一体で活用していくことで、ものづくりの生産性が大きく向上すると期待できます。


2017年4月

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