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2017年03月01日

AIとものづくり①
AI活用の3つの条件

最近AI(人工知能)が急速に普及し始めた様子です。「上司から、AIを使って仕事を効率化しろと言われた」「AIって何でも出来そうだけど、映画みたいに人間より賢くなるのかな?」など、期待や関心を持つ人も多いと思います。一方、30年前にもAIブームがあったことを知っている人は「最近またAIが流行っているけど、以前のエキスパート・システムと何が違うのかな」と疑問を持ち「今回のAIブームもせいぜい来年ぐらいまでだろう」と懐疑的な人もいます。そこで、今回はまず、最近のAIが以前とどう違うのか考察してみます。

まず、今のAIは以前に比べ、その能力が実感でき、実用性が感じられ、日常生活にも浸透しています。以前のAIも、様々な専門分野のエキスパート・システムとして期待されましたが、おおむね実験段階や試行で止まっていました。最近の例では、最も知的なゲームである囲碁において、AIが世界最強のプロ棋士を4勝1敗で破りました。アメリカの有名クイズ番組「ジェパディ!」では、人間の回答者に交じってAIが見事優勝し、AIの書いた小説が「第3回星新一賞」の一次審査を通過しました。こうした話題性のあるAI適用例だけでなく、金融や医療の分野でも、人間の能力を凌ぐ成果をAIが発揮しています。身近なところでも、顔の画像認識、自然言語理解、同時通訳などのサービスが実際に気軽に使え、AI搭載のロボットも買えるようになりました。

AIが使う技法も以前と変わっています。以前のAIはルールベースの技法でしたが、最近よく使われる技法は「ディープラーニング(深層学習)」という人間の神経を真似たニューラルネットワークです。実は、このニューラルネットワーク技法は以前からあったのですが、当時はAI研究の範疇とは別物と扱われていました。このように技法は変わったものの、昨今のAI進歩の最も大きな要因は、やはりコンピュータ処理能力の格段の飛躍です。いわゆる「ムーアの法則」に従って、コンピュータ処理能力は1年半ごとに倍になり、さらに並列計算技術の進化も相まって、AIの実用性が一気に高まったと考えられます。

AIがブレークスルーしたもう一つの要因は、膨大な、質の良いデータが利用できるようになったことです。プロ棋士に勝ったAI「アルファ碁」は、3000万もの過去の棋譜データを学習しました。診断が極めて難しく、特殊な白血病患者の治療法を10分で見抜き、患者を救ったAI「ワトソン」は、2000万件の医学論文データを読み込みました。顧客分析やコールセンターサービス、業務改善などのAI活用例がある金融ビジネスでは、従来から大量データが保有されています。

これらのAI事例から考察すると、AI活用に適した分野には3つの条件がありそうです(下図参照)。

AI活用できる分野
図.AI活用できる分野

まず、明確な課題・ニーズがある分野なのは当然として、その分野に良質で膨大なデータが存在することが必要です。さらに3つ目の条件は、その分野の基本法則や原理がある程度分かっていることです。例えば、ゲームは法則・原理が明確でAIと相性が良いのですが、完全自動運転は、まだAIにとって難しい分野です。車の運転そのものの法則・原理は分かりやすいのですが、道路状況や天候に応じた柔軟な対応、歩行者や他の車の予測できない動きへのとっさの判断などの法則・原理は単純ではありません。今後AIが信頼できるドライバーになるためには、大量の運転データを使って、もっと学習する必要があるのですが、質の良いデータがまだ十分蓄積できていません。完全自動運転実現を急ぐ各社が、公道で色々な走行データを収集しているのはこのためです。

それでは、製造業のものづくり、コトづくりの分野において、AIは生かせるのでしょうか? 製造現場には、製造実績や品質、検査結果などのデータが蓄積されています。さらに、これからIoTに代表される第4次産業革命に取り組んでいこうとしています。IoTが本格化していくと、これまで以上に製造工程、製造装置、そして顧客企業に設置された機器から大量のデータが継続的に収集できるようになるでしょう。加えて、日本メーカーには長年受け継ぎ、磨いてきたノウハウ・技があります。これらの条件をみると、ものづくり、コトづくりの分野において、AIは大いに期待できると思います。次回はものづくり、コトづくりにおけるAI活用を具体的に見てみます。


2017年3月

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