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2016年12月01日

ビジネスモデルを変える⑫
完全自動運転車実現におけるメーカーへの期待

自動車産業はこれまで約1世紀もの間、右肩上がりで成長してきました。このように長期に渡り、人々の生活や経済に大きな価値をもたらし続けてきた製品は他に見当たりません。今や世界で12億台以上、つまり6人に1台の割合まで普及し、現在でも年間約9千万台出荷されている自動車ですが、一方で構造的な負の側面も持っています。まず、自動車事故で命を落とす人は世界で年間125万人、若年層の死因では自動車事故がトップです。日本では自動車事故件数は減ってきていますが、最近は高齢者層による事故が目立っています。自動車の排ガスに含まれる窒素酸化物などの有害物質や二酸化炭素の排出など環境問題もますます深刻化しています。さらに、都市部の道路渋滞も未解決で、特に新興国では大きな問題となっています。これら自動車の構造的な問題を解消する切り札として期待できるのが、このコラムで紹介してきた完全自動運転車です。

では、世の中の人は完全自動運転車に実際どの程度期待しているのでしょう。コンサルティング会社の調査によると(図表1)、「完全自動運転車を将来購入したい」と思う人の割合は日米とも44%で、逆に「購入したくない」と考えている人も日米とも30~35%いて、賛否に意見が分かれています。米国における購入したい理由の上位を見ると、安全性、利便性、経済性が上げられている一方、購入しない理由の上位にも安全性が挙げられています。消費者は まだまだ「完全自動=安全」と納得できていないのが現状のようです。

完全自動運転車の購入意向
図表1.完全自動運転車の購入意向
(出典:ボストンコンサルティンググループ PRESS RELEASE 2016/9/16より編集加工)

実際に起こっている自動車事故の大半は、運転者の安全不確認や脇見運転が原因であり、完全自動運転車になるとこれらの事故は激減すると言われています。高齢者や長距離トラックやバス運転手の過労による事故対策にも完全自動運転車は有効です。安全性の実証も公道テストで積み重ねられています。一方で、完全自動運転車のシステムの誤りや不完全さ、ネットワーク断線やサイバー攻撃による制御不能リスクなど、これから解決していかないといけない安全面の課題もあります。

完全自動運転車市場には、従来型自動車メーカーやIT企業を始めとして新規参入自動車メーカーや自動車部品メーカーなど様々な企業が参入しています。これら参入企業の中で、「完全自動運転車の製造元はどの企業が望ましいか」の調査(図表2)で消費者に選ばれたのは、従来型自動車メーカーでした。国によって割合は異なるものの、どの国においても最も多くの人が従来型自動車メーカーによる製造を希望しています。特に、ものづくり大国のドイツや日本ではその傾向が際立っています。完全自動運転車の分野で話題を集めているIT企業や新規参入自動車メーカーよりも、従来型自動車メーカーを支持するのは、これまで培ってきた信頼が理由であろうと思われます。

完全自動運転車の製造元として望ましい企業
図表2.完全自動運転車の製造元として望ましい企業
(出典:ボストンコンサルティンググループ PRESS RELEASE 2016/7/22より編集加工)

それでは、これからの完全自動運転車の普及に向け、従来型自動車メーカーに期待したいことをもう少し具体的に考えてみましょう。まず、社会的な理解を深めるために、完全自動運転車の能力やリスクをオープンかつわかり易く説明することが期待されます。その説明には、能力を適切に表す用語も重要です。例えば、完全自動運転への過渡期では、消費者の過信を誘う表現ではなく、むしろ過信を抑える慎重な言葉使いの方が良いと思われます。また、恐らく自動運転車実現の過程では、事故やトラブルは避けられないでしょう。メーカーにとって都合が悪い事実やリスクを覆い隠したり、十分な対策なしに強引に突き進んでいくと、消費者の不安と当局による規制強化につながっていきます。適度な規制であれば消費者に安心感を与えますが、過度の規制は大事なイノベーションに蓋をしてしまうことになりかねません。

もう一つ自動車メーカーに期待したいことは、「完全自動運転車をまず社会のどの場に投入するのか」というシナリオを明確にし、それを推進して見せることで、消費者に完全自動運転車の安全性や有効性を実証して見せることです。例えば、採算理由で運営できなくなった路線バスや労働環境の厳しいトラックの深夜運送などへの完全自動化車導入ロードマップを示し、それを実践していくことで、消費者の不安は期待に変わっていくと考えます。完全自動運転車がどんなに技術的に進化しても、市場に理解され、受容され、評価されないとイノベーションには至りません。従来型自動車メーカーには、これまで培ってきた安心感・信頼感を基に完全自動運転車が社会に普及し、定着するまで牽引していってほしいと期待します。


2016年12月


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