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2016年10月01日

ビジネスモデルを変える⑩
自動運転で世界が変わる

最近、クルマの自動運転技術の開発競争が激しくなっています。欧米の自動車メーカー各社は自動運転車の開発や実験に積極的に投資し、技術を蓄積しています。日本の自動車メーカーも、今年5月の伊勢志摩サミットで最新の自動運転車を各国首脳に披露しました。部品メーカーも自動運転用部品の開発に取り組んでいます。大手メーカーだけでなく、自動車のベンチャー企業の参入も盛んです。自動運転に取り組んでいるのはメーカーだけではありません。Uber Technologiesなどのライドシェアのサービス会社や、グーグル社を筆頭としたIT企業も自動車メーカーに劣らず積極的です。このように業種の異なる多くの企業が注力する理由は、自動運転が実現すると20世紀の自動車の出現に匹敵する大きな変化をもたらす可能性があるからです。

自動運転には大きく4つのレベルがあります。レベル1は、アクセルやブレーキ等の機能のどれか一つの自動化で、レベル2では複数機能の自動化です。この段階までは既に実用化されたクルマがあります。レベル3は自動車にほとんど任せるものの、緊急時など必要に応じて人間が運転する「条件付き自動化」です。このレベルの自動運転車は、公道で実験走行しつつあります。そしてレベル4になると、操作や安全確認も含め全て自動車に任せてしまう完全自動化で、運転席のないロボットカーとなります。欧米の先行自動車メーカーは、2021年までに完全自動運転を実現すると発表しています。日本政府も成長戦略で2025年を目途にレベル4の実現を目指すロードマップを描いています。(図1参照)

自動運転のレベルと日本政府のロードマップ
図1 自動運転のレベルと日本政府のロードマップ
(出典:内閣府SIP「自動走行システム研究開発計画」を基に編集)

完全自動運転の実現には、例えば車の合流地点や工事中の路線をどう切り抜けるかなど多くの課題があります。自動運転で比較的走行しやすい高速道路に比べ、混雑する一般道路や人が飛び出す生活道路ではさらに難度が増します。これら技術面の課題に加え、事故時の責任、損害保険の仕組みのあり方など制度上の整備も必要です。また、人の運転を前提とした日本の道路交通法など法的課題もあります。

このような技術・制度・法律の課題を解決しつつ、完全自動運転は想像以上のスピードで進展し、2035年には新車販売台数の約10%を占めると予測されています。完全自動運転が普及していくと、ものづくり面、販売面などで色々と変化が起こると予想されます。ものづくり面では、部品構成や部品点数、その製造工程などが大きく変わります。販売面においても、市場セグメントや売り方などが様変わりしていきます(図2参照)。

完全自動運転車の普及による変化例
図2 完全自動運転車の普及による変化例

それでは、販売面で起こる変化を見てみましょう。完全自動運転は移動サービス(シェアリング・サービスなど)と親和性があり、相乗的に普及していくと考えられます。つまり、完全自動運転車の普及により、利用サービスの利便性が増し、稼働率の悪い車の所有から利用への変化が加速します。また、移動サービスの需要が増えると、ランニング・コストを抑えつつその需要を満たすために、完全自動運転車が不可欠となります。このように完全自動運転車と移動サービスの普及に伴い、自動車メーカーの主な販売先は、移動サービスの運営会社に変わっていき、BtoCからBtoBのビジネスとなっていきます。この運営会社は、利用者と直接接点を持つことで、彼らの利用ニーズや動向を把握することができ、自動車メーカーに対し要望を出し、影響力を持つ立場となります。現在、この運営会社候補の最右翼にいるのが、既に利用サービスのノウハウや顧客をもつUber Technologiesなどのシェアリング・サービス会社です。自動車メーカーにとっては、自動化運転車の普及により自動車販売台数が減るだけでなく、運営会社の仕入先になってしまうリスクがあります。自動車メーカーがシェアリング・サービスに積極的なのはこのためです。また、ネットを使ったサービスを提供しているIT企業も優位となります。IT企業にとって完全自動運転の車は、車内の人がネットのコンテンツや広告に触れる端末でもあり、広告料によって格安の移動サービスを提供できる可能性もあります。もし、自動運転の核となるソフトウエアを持てれば、移動サービスのプラットフォームを築くことも可能となります。

このように完全自動運転車の普及は自動車業界のみならず、様々な業界の企業にとって大きなビジネスチャンスであり、リスクとなります。完全自動運転の普及が自社にとってどんな変化をもたらし、自社は何を為すべきか、早めの検討・準備が求められています。


2016年10月

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