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2016年08月01日

ビジネスモデルを変える⑧
急速に拡がる、もののシェアリング

最近、自分が使っていないものやスペースを他の人に提供することで対価を得る「シェアリング・サービス」が一般的になってきています。例えば、空いた住宅や駐車場、自宅の部屋、そしてクローゼットの中の使われていない高級バッグやドレスなどを他の人に有料で貸し出すサービスが続々と登場しています。少し前までは「自分のものは自分で使う」のが当たり前でしたが、「自分のものを他の人にも使ってもらう」という考え方が広まっています。また、シェアハウスやボートシェアリングのように、ものやスペースを複数の人で共用することも定着してきています。このように個人の小さな需要と供給を結びつけるシェアリング・サービスが、大きなビジネスに成長しつつあります。

ビジネスモデルの観点からは、シェアリング・サービスは、前回取り上げたプラットフォーム・ビジネスの1パターンと見ることができます。ものやスペースの貸し手と借り手を仲介するサービスであり、借り手は所有することなく利用ができ、貸し手は貸し出しによる対価を得ることになります。プラットフォーム・ビジネスの拡大は、インターネットと決済システムが寄与しました。シェアリング・サービスの急速な成長は、これらに加えて、スマホの普及が寄与しています。スマホを使って、個人が誰でもどこでも手軽にプラットフォーム上のシェアリング・サービスにアクセスきるようになりました。 また、ソーシャルメディアのコミュニティ機能が、シェアリング・サービスの貸し手と借り手間で必要となる相互信頼を生み出しています。

では、最も高価な耐久消費財である自動車のシェアリング・サービスを具体的に見てみましょう。自動車のシェアリング・サービスには、大きくライドシェアとカーシェアがあります。1つ目のライドシェアは乗車したい人と、個人の自動車とドライバーの空き時間をマッチングするサービスです。一見タクシーと似たサービスですが、ライドシェアはタクシー免許を持たない個人ドライバーが所有する自動車を使ってサービスを提供します。米国のライドシェア最大手のUber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)社のサービスでは、車による移動が必要な時にスマホのアプリのボタンを押すだけで、GPSの情報を使って近くにいる自動車を呼び出してくれます。料金はアプリに事前登録しておいたクレジットカードで自動的に支払われ、領収書もメールで送られてくるので、降車時の手間はありません。また、ライドシェアは運営経費も安く済むため、料金は一般タクシーよりも安く、利用者によるドライバーの評価は公表されるため、サービスも悪くありません。

Uber Technologies社のライド・シェア
図 Uber Technologies社のライド・シェア

2つ目のカーシェアは、車を複数の人が共用するサービスです。企業が街中に多数の駐車スペースと車を用意し、車を使いたい人は自由に乗ることができるサービスと、個人所有の車を貸し借りするサービスがあります。企業が提供するカーシェア・サービスは、既存のレンタカー・サービスとよく似ているのですが、利用者はレンタカー取扱店に出向き、手続きをする必要はありません。カーシェアは、車の予約から返却までスマホ等で行い、車の開錠もスマホやICカードで容易に行えます。車の利用もレンタカーのように日単位ではなく、分・時間単位の短時間でも利用できます。あたかも自分の車を持っているかのように、必要なときに、とても手軽に車を利用できるのが、カーシェアの特長です。

自動車のシェアリング・サービスが急速に普及しているのは、いくつかの理由があります。まず、自動車の所有に掛かる、駐車場や保険、メンテナンスの費用や煩わしさがなくなります。次に、人が所有する自動車は通常1種類に限られますが、カーシェアであれば、ビジネスはセダン、レジャーはSUV、買い物は軽自動車など、TPOに応じて服を選ぶように、車種を選び、楽しむことができます。さらにカーシェアは、都市の渋滞を縮小し、温室効果ガスの排出を削減するため、「クールな選択」にもなります。既に世界451都市でライドシェア・サービス展開しているUber Technologies社のカラニックCEOは、「個人所有の車は96%の時間使われていず、土地や空間の3割が鉄の塊を収容するために使われている」、「米国では渋滞に巻き込まれることで1600億ドルの生産性が失われ、二酸化炭素排出量の20%は我々が乗る車から放出されている」と訴えています。

ある調査によると、世界のシェアリング・サービス規模は、2025年には3兆円を超えるとのことです。日本では、規制等の制約もあり、昨年のシェアリング・サービスの規模は285億円ですが、今後年平均17%伸びていき、2020年には600億円になると見込まれています。もののシェアリング・サービスの台頭は、製造業にとって大きな影響をもたらす可能性があります。シェアリング・サービスにより、所有することなく利用できるようになってくると、消費者はものに拘らなくなってきます。価値の源泉がものからコトに移っていき、ものを所有することよりも利用することが大事になっていきます。もののシェアリング・サービスの市場規模が大きくなれば、サービス企業やIT企業も当然シェアリング・サービスに参入してきます。製造業の各企業は今後こうした変化と影響をどう理解し、何を為すべきか判断を迫られることになります。

次回は、もののシェアリングが最も進展している自動車業界において、メーカー各社が変化をどう見て、どう対応をしているか、参考に見てみましょう。


2016年8月

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