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2016年05月01日

ビジネスモデルを変える⑤
ジレットモデルで成功するには?

これだけモノが豊かになると、新製品を市場に投入しても、売れるのは発売当初だけで、すぐに売れ行きが落ちてしまいます。そこでメーカーは販売機会をできるだけ増やせるビジネスモデルを考えるようになります。その一つが、定期的に後継モデルを投入し、既存利用者にモデルアップを促すことで販売機会を増やしていくビジネスモデルです。スマートフォンのように、製品の購入者は使い慣れた製品から他社製品に切り替える不便さや煩わしさを嫌うため、同じ製品の後継モデルを投入することで、販売機会を増やすことができます。販売機会を増やすもう一つのビジネスモデルが、製品を本体と消耗品に分け、消耗品の継続的な販売機会を作り出していくものです。このビジネスモデルの実例には、プリンターとそのインクやトナーの販売、検査機器と試薬の販売、そしてコーヒーマシンとコーヒーカプセルの販売など、いろいろと思い当たるものがあります。このようなビジネスモデルは、そのオリジナルが「替え刃式カミソリ」であることから、「ジレットモデル」と呼ばれます。今回はこの「替え刃式カミソリ」を参考にしながら、ジレットモデルで成功するための要因について考察します。

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図 販売機会を増やすジレットモデル

ジレットモデルでは、最初に安く本体製品を買ってもらい、その後消耗品を継続的に購入してもらうことで利益を上げていきます。このビジネスモデルは、初期費用を抑えてあるので、「一度買ってみるか」と気軽に製品を試せることがお客様にとっての価値になります。メーカーにとっても、購入者に気に入ってもらえれば、高い利益率の消耗品を継続的に購入してもらい、儲けを出すことができます。一般的に、製品の所有者がライフサイクルを通して支払う費用は、当初の製品購入額の5~10倍以上だと言われています。

替え刃式カミソリのアイデアは、キング・ジレットが1895年に出張先のホテルで髭剃りをしながら思いつきました。当時のカミソリ刃は、鈍ってくれば自分で何回も研ぎ直す必要があり、この面倒な研ぎ直しを不要にし、使い捨ての替え刃にすることを考案したのです。しかし、その頃のカミソリ刃は研ぎ直しに耐えるように大変分厚く、これを、使い捨て用の安価で薄いカミソリ刃にする技術はどこにもありませんでした。キング・ジレットは薄い刃にする技術を大学の技術者の協力も得ながら、6年かけて苦難の末に実現することができました。もしこの技術が簡単なものだったら、誰でも替え刃カミソリを販売することができ、ジレットが替え刃カミソリ事業で成功することはできなかったでしょう。このようにジレットモデルで成功する製品を産み出すには、常識を覆す発想とそれを実現するものづくり力が必要となります。

一方、いくら優れた製品であっても、これまでの常識と全く異なるものはそう簡単に市場で受け入れられません。替え刃式カミソリであれば、「毎日研ぎ直さなくてもよい」という革新的な価値を伝え、まずは製品本体を買ってもらうことが必要です。そこでジレットは男性向け雑誌などで替え刃式カミソリの利便性をメッセージとして発信し、女性に向けても、男性へのプレゼント用として新しい価値をプロモーションしました。さらに、高価な本体部分を戦略的に低価格で販売することで、徐々に市場に普及していきました。つまりジレットモデル成功の要因の2つ目は、効果的なマーケティングであると考えられます。

さらに、ジレットモデルが事業として継続・拡大していくには、消耗品の代替品や本体の類似品に対抗していかねばなりません。ジレットは交換部分のジョイントを特殊なものにするだけでなく、替え刃の数を2枚から3枚、4枚から5枚へ増やすことで性能を高め、さらに切れ味を良くするポリマーやコーティングを付けるなど、止まることなく製品を革新し続けてきました。このようにジレットモデルが事業継続・拡大するには、継続的な製品革新が必要となります。

最近では替え刃を店に買いに行かなくても低額で定期的に自宅に届けてくれ、しかも替え刃タイプや取り替え頻度をいつでも変更できるサービスも現れてきています。ジレットモデルもここまでくると、今年の2月と3月のコラムで紹介した「製造業のサービス化」と非常に近いビジネスモデルと見做すことができます。メーカーが本格的に「製造業のサービス化」に取り組むには、その収益構造を大きく変え、ITなどモノづくり以外のノウハウも必要となるため容易ではありませんが、ジレットモデルはメーカーが「製造業のサービス化」に向かう際のワンステップになるものと思います。


2016年5月

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