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2016年04月01日

ビジネスモデルを変える④
タダでも儲かるビジネスモデル

企業は様々なタイミングでビジネスモデルを見直す必要があります。まず、企業が対象とする市場や商品・サービスが変わる時、また企業を取り巻く外部環境が変化する時などです。例えば、最近の電力自由化や送配電分離のように法規制が変われば、新たなビジネスモデルが生まれてきます。技術革新も、新しいビジネスモデルを産み出す大きな要因です。特にインターネットの出現は、様々な新しいビジネスモデル創出の潮流を作り出しました。製造業においても、デル社のダイレクトモデル(直接販売+受注生産)やアップル社のiPodの音楽配信サービスなど新しいビジネスモデルが現れました。

新しいビジネスモデルを検討する上で、世の中の様々なビジネスモデルがうまく整理されていれば大変参考になります。実は、新たなビジネスモデルで成功している企業がそのビジネスモデルの考案者でないケースは結構多いのです。これまでもビジネスモデルを類型化する研究は色々なされてきました。研究の多くは既存事例から演繹的に類型化しているのですが、ビジネスモデルを重複や漏れなく分類することは結構難しいようです。

そこで当コラムでは、代表的なビジネスモデルをいくつか取り上げ、ものづくりの視点と絡めて考察していきたいと思います。

今回取り上げるビジネスモデルは、タダでも儲けることができる「フリーミアム」です。実例を挙げると、多くの人が利用しているSKYPEやDROPBOXなどが典型的な「フリーミアム」のビジネスモデルです。このビジネスモデルでは、使いたい人に無料でサービスを提供する一方、無料サービスの範囲を超える本格的利用にはしっかり料金を支払ってもらうことで収益を上げています(下図参照)。そもそも「フリーミアム」という名称もフリー(無料)とプレミアム(割増)を合わせた造語です。

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図.「フリーミアム」ビジネスモデル
(ソース:クリス・アンダーセン著「フリー」より編集加工)

「フリーミアム」のサービスには下表のようにいくつかの型がありますが、いずれもできるだけ多くの人に気軽にそのサービスの価値を実感してもらい、その中から有料のプレミアム・サービスを必要とする利用者を増やしていくのが成功のポイントとなります。

表.「フリーミアム」のサービス型の例
サービス型 説明
機能制限 無料で利用できる機能は一部限定、フル機能は有料
人数限定 企業内の一定利用人数までは無料、数が多いと有料
時間制限 一定アイテム時間は無料、それを超えると有料

平均的な「フリーミアム」 ビジネスモデルでは、95%の無料利用者と5%の有料利用者の構成で収益を確保するといわれます。つまり、ネット上のサービスのように、サービスの提供コストが極めて小さく、しかも利用者の数が増えてもコストはそれほど増加しないことが前提となるビジネスモデルです。

たとえネット上のサービスであっても、安易な「フリーミアム」のビジネスモデルでは失敗してしまいます。利用者が増えると、問合せ、苦情、サポートなどの対応のコストがかかります。無料サービスと有料サービスにあまり差がないと、有料サービスを使ってもらえません。かといって、無料サービスのレベルを下げると利用者数は増えません 。

それでは、「もの」を対象とした「フリーミアム」ビジネスモデルは成り立つのでしょうか? ものづくりの一般的な製造原価は5割前後であり、さらに「もの」を届けるための物流費も必要です。データコンテンツはコストゼロでコピーでき、配信費も不要ですが、「もの」は提供先が増えれば、比例して製造や物流の直接費が発生していきます。このように 「もの」を対象とした「フリーミアム」ビジネスモデルは、収益確保が難しいようです。

また、一見「フリーミアム」風のビジネスモデルに、無料試供品を多数の人に配ることで一部の人による正規品購入に繋げる「試供品」ビジネスモデルがあります。商品を一定期間無料で使え、気に入らなければ返品でき、気に入ればそのまま購入するのも「試供品」ビジネスモデルです。しかしながら、この「試供品」ビジネスモデルは実費のかかる試供品を同一顧客に継続的に提供できないため、厳密には「フリーミアム」とは異なります。

このように サービスや「もの」をタダにするビジネスモデルは、お客様の購入時の不安やリスクを取り除くことで集客効果があり、売上を伸ばすことができます。一方で、競合企業に模倣され易く、ビジネスモデルそのもので差別化することはできません。結局、競争優位を築くには、サービスや「もの」の価値を高めることが第一となります。


2016年4月

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