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2016年03月01日

ビジネスモデルを変える③
製造業がサービス化に向かうワケ

前回のコラム「製造業のサービス化」では、生産した製品を販売するのではなく、サービスとして提供する新たなビジネスモデルを取り上げました。この製造業のサービス化は、今後の製造業における大きな流れとなりつつあります。そこで今回は、製造業のサービス化がお客様そしてメーカー自身にとって、どんなメリットをもたらすか整理してみたいと思います。

表 製造業サービス化のメリット
サービス化のメリット
お客様にとって メーカーにとって
  •  経済性
  • 製品の機能価値向上
  • 製品購入時のリスク回避
  • コトづくり
  • お客様とのビジネス継続
  • お客様ニーズの理解

そもそもお客様が製品を購入する理由は大きく2つあります。1つ目の購入理由は、その製品を「所有」するためです。例えば、高いお金を払ってでも好きな絵画を買うように、お客様にとってはその製品を所有すること自体に価値を感じる場合です。この場合は、メーカーは製品を販売すればよく、特にサービス化は必要ありません。もう一つの購入理由は、その製品を何らかの目的のために「利用」する場合で、実際の製品購入はほとんどこの「利用」のためと考えられます。

それでは、お客様が製品を「利用」する場合にサービス化がもたらすメリットを、まずお客様側から見てみましょう。お客様にとってサービス化の最大のメリットは、経済性です。お客様は製品を購入したら、何もせず利用できるわけではありません。製品の操作、監視、消耗品の在庫管理、取り換え、故障時のメーカーへの修理依頼など、利用するには様々な運用作業が必要となり、これらをコスト換算すると想像以上に大きな負担となります。製品のサービス化は、単に製品購入時の大きなコスト負担をなくし、コストを固定費から変動費化するだけでなく、お客様に大きな負担となる運用作業コストを下げることが期待できます。

製品が提供する機能的価値が高まることも、お客様にとってのサービス化のメリットです。製品を知り尽くしたメーカーの専門家が調整や予防保守、故障対応を実施することで、製品の可用性や機能性、信頼性は高いレベルを維持できます。

さらにサービス化することで、製品購入時に起こしがちな過ちを回避できることもメリットです。お客様は実際に製品を使うことで製品のもつ機能や使い勝手を実感できますが、購入前に製品仕様を十分理解し、製品の使い勝手を判断することはかなり難しいものです。その結果、オーバースペックの製品を買ってしまったり、使ってから期待していたものとギャップがあることに気付くことが往々にしてあります。製品がサービス化されることで、これらの問題を解消できます。


今度は、メーカー側からサービス化のメリットを見てみましょう。メーカーにとっての最大のメリットは、製品提供だけでは「もの」としての機能や仕様面の価値に限られるのに対して、サービス化により様々な「コト」の価値を付加できることです。これにより、収益を拡大し、他社と差別化できる領域も広がります。次に、メーカーはサービス化により、より深くお客様の業務に関わることができ、お客様との関係を深め信頼を得ることで、ビジネスの継続・拡大が期待できます。さらに、メーカーはサービス化を通して、製品に関する利用実態やお客様からの評価を直接把握することができます。製品の利用現場の情報やお客様からの生の声は、新製品の開発やマーケティング戦略の貴重なインプットになります。


このように製造業のサービス化は、お客様とメーカー双方に大きなメリットをもたらします。しかしながら、どの製造業でもサービス化が有効であるとは言えません。BtoCの製造業では、例えば家電や家庭用品などは製品が故障しても、修理に出したり、買い替えるのが一般的で、サービス化の有効性は低そうです。一方、お客様がそれなりに運用・保守にコストをかけている自動車などの場合は、カーシェアリングなどのようにサービス化が進んでいきそうです。BtoBの製造業は、BtoCに比べサービス化に向いています。前回ご紹介した航空機エンジン、建設機器、製造装置、医療機器、ビルの設備などは、サービス化を早くから取り入れている代表的な業界です。これらの製品がうまく機能しないとお客様企業の業務に支障をきたすとともに、保守・運用作業も負担が大きく、お客様企業にとってサービス化は大きなメリットをもたらします。

欧米のメーカーのサービス化への取り組みに比べ、日本のメーカーのサービス化は遅れているようです。しかし、日本のメーカーはこれまでサービスを疎かにしてきたわけではありません。むしろ「多少無理してでもお客様のために一肌脱ぐ」というようなマインドを見ると、サービス化の必要性・重要性の認識は高いと思います。今後、日本のメーカーは、アフターサービスなど従来型のサービスや、相手に求められて応じる受け身のサービスに止まることなく、製品とサービスを一体で提供する新たなサービス化のビジネスモデルの設計・構築を、積極的に推し進めていく段階にあると考えます。


2016年3月

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